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2011年4月23日

【この一冊】『なぜ日本は「大東亜戦争」を戦ったのか―アジア主義者の夢と挫折』

「論争誘導型」司会者による「右翼イデオローグ」論 

無題.png『なぜ日本は「大東亜戦争」を戦ったのか―アジア主義者の夢と挫折 
著者・田原総一朗
PHP研究所、定価1700円+税

 
 著者はもともとフリーのジャーナリストだったが、テレビ朝日系「朝まで生テレビ」「サンデープロジェクト」などで激しく論争を迫る「論争誘導型」司会者として活躍し、現在もテレビ・ラジオのレギュラー、雑誌の連載を多数抱える「最も多忙なジャーナリスト」である。そんな著者がなぜ、このタイミングでこのような本を書いたのか?

 日本は「欧米に次ぐ第三の極としてのアジア共同体作りを目指さなければならなくなっている」にもかかわらず、「大東亜共栄圏」構想とこれに主導された満州事変・日中戦争・太平洋戦争によるアジア諸国への侵略・戦場化は十分克服されておらず、「近代の日本が誤ったとすれば、どこで何ゆえに誤ったのか」を検証する必要がある。「そこで、太平洋戦争(大東亜戦争)に到る明治以来の日本の近代化の歴史を点検しなおすことにしたい」というのが動機になっている。

 そこで取り上げられるのは「大東亜戦争」を思想的に推進したとされる松井岩根、頭山満、大川周明、北一輝の「右翼のイデオローグ」たち。これらの人物は通常は歴史の表舞台には登場せず、せいぜい2次資料による解説だけで新たな発見があるわけではない。

 ただ、いずれも幕末の「尊王攘夷」→「征韓論」→「自由民権運動」の思想的流れを引き継ぐ者たちだ、という指摘は興味深い。つまり、日本の近代史は基本的に「開国派」対「攘夷派」の対立・抗争の歴史だと言うわけである。

 彼らは植民地化されたアジア諸国の欧米からの独立を目指す「大アジア主義者」ではあったが、必ずしも満州事変、日中事変、大東亜戦争に賛成していたわけではない、というのが著者の主張である。本書を材料に左右の論客を集め、「朝まで生テレビ」でもやってほしいものだ。  (酒)
 

 

 

 

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