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2017年1月 3日

【書評&時事コラム】『人口と日本経済』

「人口減→日本衰退」は誤り

c170103.jpg著者・吉川 洋
中公新書、定価760円+税

 

 人口減と経済縮小は、現代日本経済の最大の課題と言ってよい。少子高齢化→労働力人口の減少→GDPの縮小という「衰退のシナリオ」が幅を利かせ、政府は対策に躍起だ。安倍政権が掲げている「働き方改革」もその一環といってよい。

 だが、こうした「人口減のペシミズム」は本当に正しいのだろうか。この分野の第一人者である著者は、敢然と「ノー」を突きつける。なぜなら、人口に大きな影響を与えるのは「1人当たり」の所得であり、それをアップさせる源泉は「イノベーション」(技術革新)だからだ。著者の主張はこれに尽きる。

 本書は人口減の先輩である欧州諸国の経済学者、マルサスやリカードらの人口論を紹介しながら、日本のケースを分析。悲観論者の発想は「労働者がシャベルやツルハシ持って道路工事をしている姿」をイメージしたものであり、その場合は働き手が減れば生産量も減る。しかし、現代経済はそこにブルドーザーが登場して労働生産性を飛躍的に上昇させており、そのブルドーザーがイノベーションと資本蓄積に当たるという。

 1人当たりGDPの上昇や活発なイノベーションが経済を活性化させることは従来から指摘されているが、日本の場合、問題はそれに合った社会体制、企業環境になっていないことだ。既得権の厚い壁が立ちはだかり、政府の進める「働き方改革」も目ぼしい成果を上げていない。このままでは衰退は必至、という正しい危機感こそ必要ではないか。本書はそう問いかけているように思える。 (俊)

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