コラム記事一覧へ

2017年1月17日

【書評&時事コラム】『日本迷走の原点 バブル』

「80年代バブル」生成と発達の記録

c170117.jpg著者・永野 健二
新潮社、定価1700円+税


 1980年代後半の「バブル」が“歴史”になりつつある。歴史とは、現在と直接にはつながらない「過去の出来事」だが、著者によれば決してそうではない。なぜなら、資本主義はバブルとデフレの繰り返しであり、安倍政権が「デフレ脱却」に悪戦苦闘しているのも、元をたどれば当時のバブルに行き着くという。同時に、著者はアベノミクス自体に、バブル再来の匂いをかぎつけてもいる。

 本書は80年初から90年初までの約10年間を4章に分け、日経新聞記者として取材にあたった人物、記事、メモを総動員しながら、バブルの萌芽から破裂の過程を代表的な事件を通じて描く。証券市場の担当が長かったことから、市場に出入りする「バブル紳士」らへの取材も豊富で、第2章「膨張」、第3章「狂乱」は生々しいエピソードにあふれている。

 バブル期の証券市場や不動産市場には、ある種の「いかがわしさ」を伴った人物が登場して暴れまくるが、それは旧弊を打ち破るパワーも持ち合わせていた。行政、それも金融行政を一手に掌握していた旧大蔵省は、本来なら「市場」を監督すべきだったのに、「業界」の監督に堕してしまったこともバブルを助長させた要因だったとする。同感である。

 本書に登場する業界や行政関係者の多くは鬼籍に入っている。あの当時、自分はどう考えて何をしたか、ほとんど語らぬまま消え去った人が多いだけに、本書は当時を知る貴重な記録でもある。ただ、バブル崩壊のピークとなった96年の住宅金融専門会社(住専)救済、97年の山一証券、北海道拓殖銀行の倒産に始まる一連の金融システム危機までは詳しいメスが入らなかったのは残念だ。 (俊)

PAGETOP