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2017年1月31日

【書評&時事コラム】『九十歳。何がめでたい』

熱い「情」と意気軒高ぶり

c170131.jpg著者・佐藤愛子
小学館、定価1200円+税


 2015年から1年間、雑誌「女性セブン」に掲載していたエッセイをまとめたもので、全29編。表題から想像できるように、相変わらずの意気軒高ぶりに爆笑したり、目頭が熱くなったり。まさに文章の神様、生涯現役社会のモデルでもある。

 今も一貫して変わらないのは、戦中派に多い「たくましさ」だ。戦争体験者は文字通り、生きるか死ぬかの瀬戸際をくぐり抜けてきた。そんな人にとって、「保育園児の声がうるさい」「飼い犬のフンは持ち帰れ」と苦情を申し立てたり、どなり込むといったしょうもない“不寛容”な社会がどうにも理解できないようだ。

 昔の日本は、そうではなかった。向こう三軒両隣りの密な付き合いがあり、味噌や醤油の貸し借りは日常茶飯事。冠婚葬祭は町内挙げて参加して助け合った。そうしたドロ臭い共同体が嫌われ、個人の自由な生活を尊重する都会生活が主流になるにつれ、いつの間にか日本は「情」を失って“乾いた”国になってしまった。

 エッセイのテーマはどれも違うが、底流にはある種共通の“潤い”が強烈に感じられ、それが本書の人気になっていることがわかる。もっとも、理屈は抜き。ガハハと笑って読み飛ばすのが著者の願いかもしれない。 (俊)

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