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2017年3月 7日

【書評&時事コラム】官僚たちの冬

 経済産業省が2月27日から、庁舎内の全室を電子施錠し、外部から入れないようにしたそうだ。「情報管理のため」(世耕経産相)だそうだが、私は「経産省もいよいよ冬に入ったか」と寂しい気分になった。

 私は新聞記者時代の1990年代の2年間、通産省(当時)詰めをしたことがある。当時は日米貿易摩擦の真っ最中。おまけにガット・ウルグアイラウンド(多角的貿易交渉)の大詰めなど、役所も記者もメチャクチャ忙しかった。忙しかったが、同時に面白くもあった。

c170307.JPG それは、日本の通商国家としての新しい形がどう作られるか、肌感覚で理解できたからだ。当然、通産省の役人にも取材攻勢を掛け、日本はどうあるべきか喧々諤々(けんけんがくがく)の議論も交わした。さすがに、事務次官室や審議官室には見張り役の秘書がいてフリーパスとはいかなかったが、それ以外は基本的に出入り自由。役人も心得ていて、重要文書を机上に置きっぱなしということはなかった。霞が関の中でもオープンな役所だったと思う。

 故城山三郎の小説「官僚たちの夏」は60年代の通産省がモデル。私のころはすでに“初秋”という感じだったが、それでも上述のように活気にあふれていた。それが、バブル崩壊後の長期不況の過程で、通商政策も産業政策も自信を失っていったのか。国内産業の新陳代謝は進まず、福島第1原発の事故で原発推進もとん挫した。ここに来て、全室施錠というなりふり構わぬ防衛措置は、内向きの「官僚たちの冬」を決定づけたとしか思えない。 (俊)

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