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2017年5月23日

【書評&時事コラム】『役に立たない読書』

“お手軽”読書に厳しい警告

 

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著者・林望
インターナショナル新書、定価720円+税

 
 
 履歴書などの趣味欄に、何気なく「読書」と書く人は結構多い。でも、考えてみれば「読書が趣味」というのもおかしな話だ。どんな分野の、どんな内容の書籍を愛好しているかまで書かなければ、どんな趣味をお持ちなのかわからないではないか。本書を読むと、ついそんなことも考えてしまう。
 
 本書によれば、仕事や生活に役立てたい、教養のあるところを見せつけたい、話題の本を読破して情報通ぶりを披露したい――などといった動機に基づく読書は役に立たない。自分にとって「知識を増やす」読書ではなく、「心の栄養」になる読書こそ、人生の役に立つという。
 
 では、何が「心の栄養」になるかは、本書とじっくり向き合っていただくしかないが、例えば、メディアでセンセーショナルに紹介される芥川賞、直木賞、本屋大賞などの受賞作を、われ先に争って読む行為などは愚の骨頂ということになる。確かに、最近の受賞作には期待外れの作品もあり、わずか1年前の作品でも世間に忘れられてしまうことも珍しくない。著者も「口コミなどを通じてジワジワ広がるのが真のベストセラー」と断じる。
 
 本書にはこのほか、書籍は図書館から借りずに購入する、電子ブックは勧めないなど、時代に逆行する主張もあって興味をそそられる。著名な国文学者だけあって、日本の古典文学からの引用も随所に散りばめてあり、「役に立つ」読書の奥深さを感じさせる。(俊)

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