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2017年6月 6日

【書評&時事コラム】『応仁の乱』

「地味な大乱」の地味なベストセラー

c170606.jpg著者・呉座 勇一
中公新書、定価900円+税

 


 時にはビジネス関連書を離れて、本格的な歴史書に分け入るのも楽しい。現代に生きる我々にも、なにがしかのヒントが得られるからで、本書もそんな1冊だ。

 本書のPR文句が面白い。「地味すぎる大乱」と銘打って、「ズルズル11年」「スター不在」「勝者なし」と、実に的確な理由を挙げている。本書は奈良・興福寺の経覚(きょうがく)と尋尊(じんそん)という幹部僧の日記を基に分析を試みている点がユニークだ。

 応仁の乱は京都が主要舞台であり、奈良は“脇舞台”のような立場。従って、2人の記述にもデマやウワサが多く含まれるうえ、あくまで興福寺の立場から書き残しているので、乱の全容を知る資料としては不十分と著者も認めている。テーマがテーマだけに、歴史家向けの「専門書」ではないか、と思われるほど地味な内容だ。それがなぜベストセラーになったのか、不思議と言えば不思議。

 当然ながら、乱の“主役”となった細川・山名の両大名、火種となった畠山家の内紛など、関係勢力の力学が詳細に分析されているが、全体を通して感じられるのは、当時は誰もが自己防衛に汲々とした理念なき時代だったこと。「戦乱の時代だから」と言ってしまえばそれまでだが、では「平和な時代」の現代には理念があるのか、いささか疑問になる。 (俊)

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