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2017年8月31日

小岩広宣社労士の「人材サービスと労務の視点」35・労災の民事損害賠償とは?

Q 弊社の作業員が現場で事故に遭い、数カ月の通院の結果、軽い後遺障害が残ってしまいました。もちろん、速やかに労災の手続きを行い、必要な給付を受けていますが、このような場合でも会社が本人から損害賠償を請求されることがあると聞きました。具体的には、どのようなケースなのでしょうか。

koiwa.png 労働者が業務中に被災した場合には、療養補償給付や休業補償給付等の労災給付を受けることになりますが、あくまでこれらは治療費や休業損害について支給されるものであり、労働者が受けた損害のすべてを補償するものではありません。

 使用者には、労働契約に伴って、労働者が安全で健康に働くことができるように配慮する義務(安全配慮義務)が課せられているため(労働契約法第5条)、労災事故の発生にあたって労働者から民事的な損害賠償を請求されることがあります。

 労災給付には、慰謝料(精神的・身体的苦痛への補償)や逸失利益(事故に遭わなければ本来もらえたであろう将来の収入への補償)は含まれていないため、訴訟等によって使用者の安全配慮義務違反が立証された場合には、これらの損害賠償に応じなければなりません。

 労災事故に伴う民事的な損害賠償の種類としては、以下のものが挙げられます。 

休業損害 事故による休業がなければ得られたはずの収入への補償。 労災からは8割(休業補償給付6割+特別支給金2割)支給される(最初の3日分は除く)。
入通院慰謝料 入院や通院の苦痛に対する慰謝料。 自賠責では1日4,200円(ほかに任意保険基準、弁護士基準がある)。
後遺障害慰謝料 後遺症の苦痛に対する慰謝料。 後遺障害等級によって金額が決められている(ほかに任意保険基準、弁護士基準がある)。
逸失利益 事故に遭わなければ本来もらえたであろう将来の収入への補償。 基礎収入×後遺症による労働能力喪失率×ライプニッツ係数。(基礎収入は、原則として事故に遭う前年度の給与年額)。

 これらのうち、休業損害(8割相当)以外については、いずれも労災給付の対象外となっています。労働者が損害賠償を請求するためには、使用者の安全配慮義務違反を立証しなければなりませんが、最近は労災申請が認定された場合には、民事的な損害賠償も容認されやすい傾向にあります。

 労災事故の発生に際して労働者に過失があった場合には、過失相殺によって損害額が減額されることもありますが、労働者に故意やよほどの重過失が認められないかぎり、大幅に減額されるケースは稀だといえるでしょう。

 労災給付の対象外となる民事的な損害賠償に備えて、それらに対応できる民間の損害保険等に加入する企業も増えてきています。労災事故は決して起こっていけないことですが、良好な労使関係のためにも、万が一のときのリスクにも備えていきたいものです。

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