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2018年3月13日

【書評&時事コラム】『私が愛した映画たち』

戦後の映画史そのもの

c180313.jpg吉永小百合、取材・構成、立花珠樹
集英社新書、760円+税

 

 この10日に封切られた映画「北の桜守」で120本目の出演になるという。恐るべき数字だが、戦後映画の隆盛と衰退、そして復活という山谷を越えてなお輝き続ける女優として、日本の近代文化の一翼を担ったことは間違いない。

 本書はデビュー作「朝を呼ぶ口笛」から最新「北の桜守」までの全12章を、代表的な出演映画についてのインタビューでまとめたもの。出演のいきさつ、監督や共演者、ロケ時の思い出など、興味深いエピソードもふんだんに盛り込まれている。

 全体を通じて感じられるのは、作品に対する思い入れの強さだ。時間の許す限り、原作に触れ、舞台となった地を訪ね、台本の役に没入する。さらには、封切りの映画館に足を運んで、演技の出来について何度も反すうする。「完璧だと思えた作品はない」とまで言い切る姿に、映画人としての誇りとあくなき向上心が強烈に伝わってくる。

 「キューポラのある街」を観て以来、評者は押しも押されぬ(?)サユリストの1人となった。あのころの美少女が、今や数少ない戦後昭和の映画を語る貴重な「生き証人」となっている。戦後70年で、日本は変わった。しかし、キューポラのヒロイン「石黒ジュン」は永遠に不滅だ。(俊)

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