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2019年4月16日

【ブック&コラム】『定年後の経済学』

最期までつきまとう?格差

c1904.jpg著者・橘木 俊詔
PHP研究所、定価1400円+税

 

 「人生100年時代」の過ごし方をあれこれ論じる新刊書が相次いでおり、本書もその一つ。高齢者雇用促進法の改正が近づき、公的年金の支給開始時期を遅らせる議論が盛んになっていることが背景にありそうだ。

 本書は「定年はなぜ存在するのか」から「定年後安心して、かつ楽しく生きるには」までの5章構成。日本の定年制の実態、年金・医療・介護など社会保障制度の意義、定年後のライフスタイルまで、豊富な統計を駆使して論じている。そこは「経済学」らしい。

 気になるのは、タイトルにもあるように、「人生後半こそ、格差は広がる」「ゆとりある老後に5000万円必要?」という点。とりわけ、現役時代の賃金格差が公的年金にも影響を及ぼし、低賃金で人生を送ってきた高齢者にとっては晩年も決して明るくないことだ。生活保護世帯の約半数が65歳以上で占められていることからも、それは事実と言ってよいのだろうが、「老後資金に5000万円が必要」に至っては、本当にそうなのか首を傾げざるをえない。

 しかし、著者はそうした“底辺”問題には深入りせず、定年後の「生きがい」論にテーマを移す。格差問題の第一人者だけに、その辺には物足りなさが残るが、高齢社会のあるべき姿を論じるための「基礎知識編」としての役割は十分果たしている。(俊)

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