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2011年9月19日

経済産業研究所上席研究員 鶴 光太郎さん(上)

正規・非正規問題は無期・有期雇用の問題

 日本経済を取り巻く内外の環境は大きく変わり、労働市場もサマ変わりしている。その象徴が正規雇用と非正規雇用の二極化。非正規雇用は全体の4割近くに増えているにもかかわらず、旧来の法律・制度ではカバーし切れないところまで格差は拡大している。調和の取れた労働市場を構築するには、何をどう変えるべきか。経済産業研究所の鶴光太郎上席研究員は、問題の根幹には無期雇用と有期雇用があるとし、「両者の中間的な雇用形態を普及させるべきだ」と提案する。   (聞き手・本間俊典=経済ジャーナリスト)

―― 正規・非正規の問題は、つまるところ無期・有期雇用の問題に行き着くとの認識が一般的になり、政府も労働政策審議会(労政審)などを通じて制度改革に乗り出しました。この動きをどう評価しますか。

tsuru1.jpg 昨年6月、政府が閣議決定した「新成長戦略」の中に、パート、契約、派遣などの有期雇用改革に向けて労政審で検討することになり、その工程表に沿って精力的な議論が行われています(注)
 しかし、議論を聞いて強く感じることは、使用者側(企業)と労働側(労働組合)の基本認識に開きがあり過ぎ、議論のかみ合わないところが多くみられる点です。
 労働側は「無期雇用が原則」として有期雇用を例外扱いしようとしていますし、使用者側は「契約の自由」を盾にフリーハンドが狭まる規制強化に難色を示す。このまま二極化が進めば、企業にとっても労働者にとってもハッピーな状態にならないことはわかりきっているのに、どちらも事態を本気で改善する気があるのかどうか、疑問に思う場面にも度々出くわします。

―― 非正規の増加にはそれなりの要因があるのに、なぜ正面から向き合おうとしなかったのでしょうか。

 企業にとっては、グローバル競争がもたらした不確実性の増大やコスト削減の必要性が増し、高度成長期のように全員を正社員にすることは不可能になりました。だから、非正規社員は雇用調整が柔軟にできる安価な労働力として欠かせない存在になったのです。
 しかし、これを裏返して非正規側から見ると雇用が不安定、賃金などの待遇が悪い、教育訓練の機会減少による雇用の質の低下、といった格差につながります。
 正社員との格差は歴然としており、とりわけ雇用の不安定は08年のリーマン・ショック時の大量の雇い止めで実証されました。それまで、労働側も非正規問題に取り組んでは来ましたが、「正社員クラブ」の労組では腰が引けていました。

―― 両者の格差を埋めるにはどうすればいいですか。

 日本の場合、正規・非正規の区別のない欧州型の「同一労働・同一賃金」の導入は不可能でしょうし、多くの欧州諸国でも現実には徹底していません。
tsuru3.jpg 両者の垣根を低くするには、正社員の給与水準を下げる、解雇要件を緩和するなどがありますが、制度上、実現は容易ではありません。
 それなら、非正規社員の保護強化で対処しようというのが現在の流れです。労政審における有期雇用の改善問題では、企業と非正規社員との雇用契約について、いわゆる入り口規制、処遇規制、出口規制を強化するかどうかで労使が鋭く対立しています。
 私は、入り口規制では、有期雇用であっても更新の可能性がある、更新の可能性はあるが回数や期間に上限がある、更新の可能性なしの3コースに分けて契約することで、働く側も先の見通しをはっきりさせられるのではないかと思います。
 また、出口規制では、雇い止めが必要な場合、企業が契約終了時に一定の「手当」を支給することで、働く側もある程度の納得感を持てるのではないでしょうか。
 いずれも、企業側の横暴な雇い止めを減らす一方、雇用の不安定にさらされる有期労働者の不満を一定程度和らげる効果はあると思います。  次回につづく)
 

注:新成長戦略 2020年までに実質2%成長を実現するため、菅政権が打ち出した「グリーン・イノベーション」など7分野の戦略プロジェクト。その中の「雇用・人材戦略」で有期契約の見直しに向けた労政審での検討と労働者派遣法の見直しを盛り込んだ。これに基づいて労政審などでパートタイム労働法の見直し、有期雇用全般の見直しが議論されている。
 

鶴 光太郎氏(つる・こうたろう)1961年、東京都出身。84年東大理学部卒、英オックスフォード大学院経済学博士。経済企画庁(現内閣府)に入庁、OECD経済局、日銀金融研究所などを経て01年退官。経済産業研究所上席研究員として現在に至る。著書に『日本の経済システム改革』『非正規雇用改革』(共著)など。

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