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2014年11月24日

臨時国会における労働者派遣法改正案の検証

法案を通す気概に欠けた政府・与党

 21日の衆院解散に伴い、臨時国会は54日間で幕を閉じた。何のための臨時国会だったのか――。成果に乏しく、最後まで浮き足立った政府のドタバタ劇に、落胆と憤りを抱いた国民は多いだろう。政府・与党は2閣僚の同時辞任を節目に国会運営の主導権を失い、軸足が定まらないまま「強気と撤退」を交互に繰り返した。その狼狽(ろうばい)ぶりを象徴していたのが、廃案となった労働者派遣法改正案をめぐる対応だ。既に始まっている総選挙に向けた各種メディアの報道の波に紛れ込んでしまわぬよう、臨時国会における派遣法改正案について政治的視点から大局的に検証する。(報道局長兼労政ジャーナリスト・大野博司)

「働き方の改革」は看板倒れに?

is141124.jpg 野党との意見対立が平行線をたどっても、表に裏にさまざまな「揺さぶり」をかけられようと、それを正面から受け止めつつ、最後は信念を持って閣議決定した法案を通す。立法府である国会で、政府が果たすべき最低限の責務だ。戦後政治を振り返ると、時の政権がそれを成し遂げられない状況に陥った時、政局が起こり、政治は停滞する。もちろん、それによって生じるツケを払わされるのはいつの時代も国民だ。

 2年前の政権交代以降、重厚かつ安定した国会運営で「(最後は)決める政治」の評価が高かっただけに、9月に発足し2カ月余で事実上役目を終えた第2次安倍改造内閣はいったい何だったのか、理解に苦しむばかりだ。

 安倍政権は「日本再興戦略改訂2014」の中で、成長戦略の柱に「働き方の改革」を掲げている。人口減少が避けられない“縮む日本”の行く末を見た時、「働き方の柔軟性や意識改革が必要」との解に至ったのだろう。しかし、戦後日本の労働慣行を見直していく作業は、そう容易(たやす)くない。性別や年代という属性、育ってきた環境や住んでいる地域、あるいは世界各国に足を運んだ経験のある人、または志を持って日本型雇用の理想を追い求める人から見た「それぞれの認識と考え方」は幅広く、賛否両論があるのは至極当然なことだ。

 そうした系譜と状況を承知のうえで、掲げた「働き方の改革」。その一里塚となるのが派遣法改正案と言える。労働者全体の中での派遣社員の割合や、果たしている役割について実態を丹念に取材していると、マスメディアがこれほど反対姿勢に傾くことに違和感を覚える。また、一部の記者を除くと派遣法そのものについての知識が浅く、勉強不足の記事も見受けられた。揺れに揺れて、「政治法」と揶揄(やゆ)される根源のひとつはここにあるのかもしれない。

 一方、臨時国会での派遣法案に関する国会運営と審議は、端的に言って衆参の議席数で少数のはずの野党に押しまくられていた。それも、かつての「野党=反対政党」という時代は終わり、一定の勢力を持つ野党も改正法案には「基本的に賛成」の姿勢を示していただけに、議会運営が稚拙だったとの指摘は免れない。あるいは、「最後は数(議席)がある」という腹の底の過信が招いた失態か。強気の与党単独審議と、審議前夜や開催直前の「撤退」の繰り返しに、与党のブレが垣間見えた。

「政権政党とは何か」を見つめ直せ

 派遣法の審議経過については関連記事で詳報しているが、衆院本会議や衆院厚生労働委員会での質疑において、「悪質事業者、不適格事業者の大規模な排除に踏み込める」、「キャリアアップとともに、望む人には有期から無期や正社員という流れへ導きやすくしたい」、「働く人がその先を選択できる多様な働き方の窓口やフィールドのひとつとして制度を見直す」――といった、改正の柱や熱のこもったメッセージは政府・与党側から重ねて聞かれぬままに終わった。これでは、反対意見の人たちに響くはずもない。

 元来、多くのメディアと野党は何の法案であれ、問題点を局所的にとらえて政府提案に攻勢をかけてくる。それは、いつの時代も変わらず、課題を浮き彫りにするのが仕事だ。廃案となった結果論ではあるが、与党にはそれに対して「理解してもらおう」という気迫と気概、それに相応するさまざまな動きに欠けていたと言わざるを得ない。

 与野党が共通して同意する社会問題の法案を、議員立法などで成立させていくことが政権与党の役割だと思ってもらっては困る。賛否ある問題で国民に理解を得たり、真の意図を伝えたりしていくのが真骨頂であり、いわば「与野党対決法案」と呼ばれる難しい法案を成立させてこそ、政権を担っている意義がある。

 派遣法改正案の国会論議の「入り口」で手をこまねいているようでは、安倍政権が掲げる「働き方の改革」に関連する今後の法案は何ひとつ進まないだろう。「アベノミクスへの評価」を最大の争点にした今回の総選挙で、どのような審判が下るかは分からないが、再び政権を任された場合には、「政権を担うとはどういうことか」という原点を見つめ直し、おごることなく、ひるむことなく政治を進めてもらいたい。

 安倍首相は真剣勝負の外遊を目前に控えた今月7日、野党欠席の中で数時間にわたり衆院厚労委の答弁席にただ座っていた。その「悔しさと反省」を与党は重い教訓にすべきだ。

 

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