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2014年12月22日

2014年の「労政審・労働条件分科会」の記録

中心は労働時間法制、かみ合わない労使の主張

is141222.JPG 厚労相の諮問機関である労働政策審議会(樋口美雄会長)は、今年も7つの分科会と11の部会が「働くこと」にかかわる課題について活発な議論を展開した。中でも、「労働時間法制のあり方」などをテーマに、労使の論戦が続く労働条件分科会(岩村正彦分科会長)は、年間を通してメディアの注目を集めた。24日に年内最後の会合を開く同分科会。年明け以降の国会における労働基準法などの法改正につながる重要なテーブルだけに、今年の動きを時系列で振り返り、経過とポイントを整理する。(報道局)

産業競争力会議や規制改革会議などの動きに反発する労働者側

【1月15日】裁量労働制適用社員の7割が「満足」、厚労省アンケート

 昨年秋からテーマの中心に据えている「今後の労働時間法制のあり方」について議論を継続。この日、事務局を務める厚生労働省は「裁量労働時間等に関するアンケート調査」(速報)を発表し、分科会に提示した。それによると、現在、裁量労働制の適用を受けている専門・企画業務型の労働者の7割が「満足」していることがわかった。

 議論はアンケート結果に対する質疑や意見交換に終始。裁量労働制を含む質問に回答した4042事業所のうち、過半数にあたる2099事業所には労働組合があり、比較的安定した制度運用が行われているとみられるが、労組のない事業所が多数を占めている現状があるため、労働者側委員から「制度の実態をどこまで正確に反映しているか、慎重な分析が必要」という意見が出た。

【2月3日】労働時間法制の「割増賃金」で議論

 「月60時間を超える時間外労働に対する割増賃金」について議論した。この日は割増賃金以上に、それに関連する年次有給休暇の取得について活発なやり取りを交わしたが、問題の本質に迫る内容とは言い難い応酬だった。しかし、厚労省はこれで議論はほぼ出尽くしたとして、次回の25日に論点整理を提示する意向を示した。

【2月25日】厚労省が論点整理を先延ばし

 厚労省が分科会に「有期雇用の特別措置法案」の要綱を提示、分科会がこれを了承した。政府の手続きを経て、開会中の通常国会に提出される運びとなった。一方、労働時間法制については、厚労省が作成した「これまでの労使の意見のまとめ」に労使が追加意見を述べた程度で、いわゆる「論点整理」は先延ばしされた。

【3月13日】特区法関連の「雇用指針」を了承 、4月スタートへ

 国会で成立した国家戦略特別区域法(特区法)の規定に基づき、厚労省が提示した「雇用指針」案を審議、了承した。特区内に設ける「雇用労働相談センター」(仮称)で進出企業の相談に乗る際に活用するもので、4月からスタートすることが決まった。

【4月3日】裁量労働制拡大などで審議再開、労使は平行線

 労働時間法制のあり方に関する議論を再開。これまで労使双方から詳細な意見が出ており、この日は事務局が作成した「今後の論点」に追加するやり取りが主となった。「今後の論点」は、企画業務型裁量労働制、一部事務職・研究職などに適した労働時間制度、フレックスタイム制、その他の4項目に分けて、労使の意見を対比した。

【4月22日】長時間労働抑制などで論点整理、労使の主張変わらず

 労働時間法制の中で、これまで議論を重ねてきた長時間労働の抑制と過重労働対策について、事務局が作成した労使の主要意見の対比と「今後の論点」を基に議論を深めた。しかし、労使の主張の隔たりに変化はなかった。

【6月16日】「成果型」制度巡り、労働者側が猛反発

 約2カ月ぶりに再開。この日は、政府の産業競争力会議などで先行している「成果型」労働制度の導入について、厚労省から説明があったが、労働者側委員はこれに猛反発し、長時間労働の抑制と過重労働対策を最優先する強い姿勢を崩さず、分科会は険悪な雰囲気に包まれた。

 産業競争力会議では民間議員の提案に基づき、4月22日、5月28日と「成果型」導入が提言されたほか、6月13日の規制改革会議の答申で労働時間制度の見直しを含む「三位一体改革」が提言されるなど、導入に向けた議論が急ピッチで進行。6月24日に閣議決定が予定される「日本再興戦略改訂2014」に盛り込まれることが確実となった一連の流れに、主に労働者側委員から激しい反発が相次いだ。

 岩村分科会長も、事務局の厚労省に対して「公労使がそろう労政審の場で議論するように」とクギを刺す一幕もあり、この日は制度変更論議の「蚊帳の外」に置かれている労政審の“フラストレーション”が爆発した形となった。

【7月7日】「成果型」は労使平行線

 「日本再興戦略改訂2014」に盛り込まれた「成果型」について、労使双方から活発な議論が挙がった。使用者側からは「成果型に対するニーズは確実にあり、制度化する必要がある」との意見が出たが、労働者側は「過重労働の抑制を先行すべきであり、それなしで成果型を制度化すれば、更なる長時間労働を助長しかねない」と強くけん制した。

具体的な項目で本格議論始まる

【9月10日】「成果型」など労働時間法制で本格審議を開始

 厚労省が「労働時間法制の今後の検討」項目を提示した。いずれも、政府の「日本再興戦略改訂2014」に盛り込まれたもので、労働基準法などの法改正が必要。政府は労政審の建議を受け、改正法案を来年の通常国会に提出する意向を示した中での会合となった。

 検討項目は、(1)長時間労働の抑制策、年次有給休暇の取得促進(中小企業が猶予されている月60時間超の時間外労働に対する割増賃金、労働時間等設定改善法の活用など)、(2)フレックスタイム制(清算期間の延長、清算時の事後的な年休取得、完全週休2日制における月の法定労働時間の特例)、(3)裁量労働制の新たな枠組み(対象業務、健康確保措置、手続きの見直し)、(4)新たな労働時間制度(時間ではなく成果で評価される働き方、対象労働者など)、(5)その他――の5点。

【9月30日】長時間労働抑制と有休取得を議論、法規制の可否巡り平行線

 全5項目のうち、最初の「長時間労働抑制策、年次有給休暇の取得促進策」を集中審議し、法規制の可否を巡り労使が平行線をたどった。
残るフレックスタイム制、裁量労働制、成果型勤務制度などは次回以降となった。

【10月8日】労使、立ち位置崩さずも活発議論

 検討項目の中の「裁量労働制」と「フレックスタイム制」の見直しをテーマに設定し、労使が双方の立場は譲らないながらも活発な論戦を展開。予定の審議時間(2時間)を延長して議論を深めた。厚労省はいわゆる「成果型」を含め議論は一巡したとみなし、次回は“中間整理”したうえで各論を掘り下げたい意向を示した。進行の手順としては、「成果型」の労使の激突を事実上、先延ばしする格好となった。

【10月28日】労働時間特例措置の存廃など議論、「成果型」は次々回で

 対象となる全5項目のうち、最後の「その他」(労働時間の特例措置対象事業場、労働条件の明示、管理監督者、過半数代表者)について意見を交わした。このうち、特例措置対象事業場は労働基準法で定める「1日8時間、週40時間」を超えて、厚生労働省令で「週44時間」まで認められている業種について、特例措置を解消するかどうかが議論になった

 この日で労働時間法制に関する議論はほぼ一巡したことから、厚労省は次回から2回を掛けて5項目の審議内容の詰めに入ることにした。最大の争点である「成果型」を含む新たな労働時間制度については次々回で“集中審議”される見通しとなった。

【11月5日】労使平行線のまま新味欠く

 この日は、「長時間労働の抑制策・年次有給休暇の取得促進」について労使が意見を述べたが、両者ともこれまでの主張をなぞっただけで、歩み寄りに向けた議論はなく、低調に推移した。具体的には、長時間労働の抑制策として、中小企業に適用除外となっている月60時間超の時間外労働(残業)に対する割増賃金、時間外労働の限度基準、勤務間インターバル規制、休日規制、代替休暇について議論した。

 結局、この日は労使とも従来の主張を繰り返しただけで、歩み寄りは見られなかったうえ、時間切れで年休取得促進などは積み残しに。次回はこれと「成果型」などの残りテーマを議論する予定だが、時間的にかなり厳しい日程になった。

【11月17日】「成果型」導入めぐり、労使が激論

 「裁量労働制の新たな枠組み」、「フレックスタイム制の見直し」といった中心議題について検討したが、「成果型」の導入をめぐる労使の対立は非常に激しく、議論は時間切れとなった。「時間ではなく、成果で評価される働き方」の導入については、今年6月の政府の「日本再興戦略改訂2014」に盛り込まれ、(1)一定の年収要件(例えば少なくとも1000万円以上)、(2)職務範囲が明確で高度な職業能力の持ち主――を満たす労働者を対象に、労働時間と賃金のリンクを切り離した「新たな労働時間制度」の適用を図る、としている。

 これに合わせ、事務局の厚労省からは証券会社のアドバイザリー業務担当者、銀行のディーラー、情報通信会社のシステムエンジニア、製薬会社の研究開発者といった“候補職種”に関するヒアリング結果も公表された。

【12月24日】今年最後となる会合が開催予定。

 年内には、分科会としての取りまとめに「一定のメド」をつけたい厚労省だが、難航は必至の情勢だ。

 

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