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2015年9月15日

<緊急寄稿>大阪大学大学院法学研究科教授 小嶌 典明さん

問題の多い附帯決議――派遣法改正案の成立に寄せて(終)

附帯決議の真の狙い
――2012年改正法の固定化とこれに続く規制強化

is1509.jpg 現場は、かなり対応に苦慮することになる。附帯決議を一読した後の感想は、そんなところにあった。大臣告示である派遣元指針や派遣先指針に対象を限定しても、附帯決議は以下にみるように、計21にも及ぶ項目を指針に規定するよう注文をつけるものだったからである(なお、各項目の文末にある「旨」は、「こと」と書き換えている)。 

Ⅰ 派遣元指針(派遣元事業主が講ずべき措置に関する指針)

1 マージン率の関係者への情報提供に当たっては、平成24年改正法の立法趣旨を踏まえ、常時インターネットにより広く関係者とりわけ派遣労働者に必要な情報が提供される方法で情報提供を行うことを原則とすること。
2 無期雇用派遣労働者を派遣契約の終了のみを理由として解雇してはならないこと。
3 有期雇用派遣労働者についても、派遣契約終了時に労働契約が存続している派遣労働者については、派遣契約の終了のみを理由として解雇してはならないこと。
4 クーリング期間経過後、派遣労働者の意向に反し、再び同一の組織単位の業務に派遣することは派遣労働者のキャリアアップの観点から望ましくないこと。
5 雇用安定措置のうちいずれの措置を講ずるかについては派遣労働者の意向を尊重することが重要であること、特に派遣労働者が派遣先への直接雇用を望んでいる場合には直接雇用につながる措置を採ることが望ましいこと、及びキャリア・コンサルティングや労働契約の更新の際の面談等の機会を通じてあらかじめ派遣労働者の意向を確認し、早期に雇用安定措置の履行に着手すべきであること。
6 雇用安定措置の真に実効性ある実施により労働契約法第18条の無期転換申込権を得ることのできる派遣労働者を拡大することが、派遣労働の中では比較的安定的な無期雇用派遣労働者への転換を望む派遣労働者の希望をかなえることにつながることから、・・・・その適用を意図的・恣意的に逃れる行為は同法第18条の観点から脱法行為であること。
7 派遣元事業主が繰り返し派遣期間3年直前で派遣就業を終了させ、又は意図的に3年見込みに達しないように派遣契約を調整することにより雇用安定措置の義務逃れをすることは、雇用安定措置の立法趣旨に反すること。
8 派遣元事業主は、派遣先との派遣料金の交渉が派遣労働者の待遇改善にとって極めて重要であることを踏まえ、交渉に当たるべきであること。
9 派遣労働者が待遇に関する事項等の説明を求めたことを理由として不利益な取扱いをしないようにしなければならないこと。
10 派遣元事業主に雇用される通常の労働者と有期雇用派遣労働者との間における、通勤手当の支給に関する労働条件の相違は労働契約法第20条に基づき、働き方の実態その他の事情を考慮して不合理と認められるものであってはならないこと。
11 派遣元事業主に義務付けられる教育訓練の内容について、派遣元事業主は、派遣労働者に周知するよう努めるべきである旨を周知し、インターネット等により関係者に対して情報提供することが望ましいこと。
12 派遣元事業主に義務付けられる教育訓練以外の教育訓練については、派遣労働者のキャリアアップのために自主的に実施すること、また、派遣労働者の負担は実費程度とし受講しやすくすることが望ましいこと。
13 派遣労働者の安全衛生については、雇用関係のある派遣元事業主と、就業上の指揮命令や労働時間の管理を行っている派遣先の連携が不十分であることから、派遣労働者の安全衛生上のリスクに対して就業上の配慮が十分になされていない可能性があるため、派遣労働者の安全衛生について派遣元事業主と派遣先が密接に連携すること。

Ⅱ 派遣先指針(派遣先が講ずべき措置に関する指針)

1 (派遣先が派遣可能期間の延長の是非を判断するに当たっては)、過半数労働組合等からの意見聴取手続の適正かつ効果的な運用が常用代替防止のために重要な役割を果たすことに鑑み、過半数労働組合等が的確な意見を述べられるよう、事業所全体で受け入れた派遣労働者数の推移のほか、過半数労働組合等からの求めに応じ、部署ごとの派遣労働者数及び派遣受入れ期間等の情報が派遣先から提供されることが望ましいこと。
2 意見聴取手続において過半数労働組合等から反対意見が述べられた場合、派遣先は十分その意見を尊重するよう努めるべきであり、当該意見への対応方針を説明するに際しては、当該意見を勘案して労働者派遣の役務の提供の受入れについて再検討を加えること等により、過半数労働組合等の意見を十分に尊重するよう努めるべきこと。
3 2回目以降の延長に係る意見聴取において、再度反対意見が述べられた場合については、当該意見を十分に尊重し、受入れ人数の削減等の対応方針を採ることを検討し、その結論をより一層丁寧に説明しなければならないこと。
4 派遣可能期間の延長手続を回避することを目的として、クーリング期間を置いて再度派遣労働の受入れを再開するような、実質的に派遣労働の受入れを継続する行為は、過半数労働組合等からの意見を聴取しなければ3年を超えて派遣労働を受け入れてはならないとした立法趣旨に反すること。
5 派遣先[は]、派遣料金を設定する際に就業の実態や労働市場の状況等を勘案し、派遣される労働者の賃金水準が派遣先の同種の業務に従事する労働者の賃金水準と均衡が図られたものになるよう努めること。
6 派遣先の使用者性を認めた中労委命令及び裁判例について周知を図り、派遣先が苦情処理を行うに際しては、それらに留意すること。
7 派遣先において適切かつ迅速な処理を図らなければならない苦情の内容として、派遣先におけるセクハラ・パワハラ等について例示すること。
8 派遣元指針の13と共通

 紙数の都合もあり、各項目について詳論することは避けるが、マージン率の公表(情報提供)さえ異常なのに、それをインターネットで行え(派遣元指針1。なお、同趣旨のことは、同一労働・同一賃金法案に関する附帯決議の七でも述べられている)というのは、異常を通り越している。それでいて、派遣先との料金交渉はしっかりやれ(同8)というのだから、理解に窮する。マージン率の公表が、派遣料金の交渉にどのようなマイナスの影響を与えるのか、考えたことはないのだろうか。

 また、世の中には、反対意見しかいわない過半数代表者もいる。イデオロギー色の強い者が過半数代表者になる傾向にある国立大学法人は、その典型といえるが、「再度反対意見が述べられた場合については、当該意見を十分に尊重し、受入れ人数の削減等の対応方針を採ることを検討」(派遣先指針3)するよう、簡単に求められても困る。国立大学法人のケースは、マイナーな例であり、およそ一般化はできないものの、思いつきのアイデアを他人に押し付けるようなことだけは、やめてもらいたい。

 派遣法の改正によって、派遣労働者が増えるかどうかは国会でも議論になったが、製造派遣の解禁に伴って、製造請負が製造派遣に転換したことにより、派遣労働者が数の上では大幅に増えた、ということも過去にはあった(注1)

 「労働契約申込みみなし」規定の施行を目前に控えた現在も、当該規定といわゆる偽装請負との関係が明確になっていないという問題があり(注2)、今後、業務委託契約の派遣契約への転換がかなり大規模に進展することも予想される。労働立法の多くが適用を除外されている国や地方公共団体においても、派遣法は全面的に適用されることから、アウトソーシングを積極的に推進してきた国や地方公共団体では、そうした方向に進む可能性が強く、行政機関にとっても、他人事では到底済まなくなっている。派遣受入れ人数の増加=常用代替といった単純な問題ではないことは、このことからも理解できよう。

 他方、さらりと触れられたことにこそ、むしろトゲがある。附帯決議も、その例外ではなかったといってよい。例えば、「派遣先の責任」について述べた、次の一節がそれである(七の4)。 

労働契約申込みみなし制度の実効性を担保するため、派遣労働者に対してみなし制度の内容の周知を図るとともに、派遣労働者がみなし制度を利用できる状態にあることを認識できる仕組みを設けること。また、みなし制度の趣旨が違法派遣と知りながら派遣労働者を受け入れている派遣先への制裁及び派遣労働者の保護にあることに鑑み、派遣先は、労働者の意向を踏まえつつ、みなし制度の下で有期の労働契約が成立した後に当該契約を更新することについては、派遣元事業主と締結されていた労働契約の状況等を考慮し真摯に検討すべきである旨を周知すること。さらに、離職した労働者を離職後1年以内に派遣労働者として受け入れてはならないとの禁止規定に違反した場合、事前面接を始めとする派遣労働者を特定することを目的とする行為を行った場合、グループ企業内派遣の8割規制に違反した場合等の派遣先の責任を強化するため、みなし制度の対象を拡大することについて検討すること。

 

 「労働契約申込みみなし制度」については、今後、一切の後退を認めない。そんな決意表明とも読める。「労働契約申込みみなし制度の実効性を担保する」「派遣労働者に対してみなし制度の内容の周知を図る」。冒頭にあるこの文章だけでも、「みなし制度」の見直しについて議論することは、今後、著しく困難になる。

 さらに、「みなし制度」と同様に、2012年の法改正によって創設された「離職後1年以内の派遣受入れ禁止」規定や「グループ企業内派遣の8割規制」規定についても、その見直しは認めないという強い意志が、この附帯決議からは伝わってくる。それどころか、これらの規定に違反した場合にも「みなし制度の対象を拡大することについて検討すること」というのだから、徹底している(なお、文中には「等」とあることから、想定されている対象拡大の範囲はさらに広い、とも考えられる)。

 上記附帯決議によれば、「事前面接を始めとする派遣労働者を特定することを目的とする行為を行った場合」もこれに含まれるようであるが、別の箇所(七の3)では「派遣先による派遣労働者を特定することを目的とする行為は、労働者派遣法の趣旨に照らし不適当な行為であることに鑑み、その禁止の義務化について検討すること」とまでいっている。ただ、ここまで来ると、時代の流れに完全に逆行しているといわざるを得ない(注3)

 なお、派遣法改正案に関する附帯決議(五の2)は、次のように述べ、同一労働・同一賃金法案に関する附帯決議(六)も、以下のように、これを事実上復唱するものとなっている。派遣法にも、下記のパートタイム労働法8条や労働契約法20条(注4)と同様の規定を置く。これら附帯決議の意図は、そこにあるといってよい。

【派遣法改正案に関する附帯決議】

均等・均衡待遇の在り方について検討するための調査研究その他の措置の結果を踏まえ、速やかに労働政策審議会において、派遣労働者と派遣先に雇用される労働者との均等・均衡待遇の実現のため、法改正を含めた必要な措置の在り方について議論を開始すること。その際、パートタイム労働法や労働契約法の関係規定も参酌して行うこと。


【同一労働・同一賃金法案に関する附帯決議】

派遣労働者に関する均等な待遇及び均衡のとれた待遇の確保の在り方について法制上の措置を含む必要な措置を講ずるに当たっては、短時間労働者及び有期雇用労働者に係る措置を参酌して検討を行い、実効性のあるものとすること。また、派遣労働者の置かれている状況に鑑み、できる限り早期に必要な措置を講ずるよう努めること。


《パートタイム労働法》
(短時間労働者の待遇の原則)
第8条
 事業主が、その雇用する短時間労働者の待遇を、当該事業所に雇用される通常の労働者の待遇と相違するものとする場合においては、当該待遇の相違は、当該短時間労働者及び通常の労働者の業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度(以下「職務の内容」という。)、当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情を考慮して、不合理と認められるものであってはならない。

《労働契約法》
(期間の定めがあることによる不合理な労働条件の禁止)
第20条
 有期労働契約を締結している労働者の労働契約の内容である労働条件が、期間の定めがあることにより同一の使用者と期間の定めのない労働契約を締結している労働者の労働契約の内容である労働条件と相違する場合においては、当該労働条件の相違は、労働者の業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度(以下この条において「職務の内容」という。)、当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情を考慮して、不合理と認められるものであってはならない。

 以上を要するに、2012年改正法の規定をまず固定化し、その上で、更なる規制強化を実現する。附帯決議の真の狙い=ターゲットは、ここにあるといって、おそらく間違いはあるまい。

 とすれば、労政審は、今後の審議に当たって、どのような姿勢で臨むべきか。労政審には、三者構成の審議会としての役割と責任があり、附帯決議の意図するところにそのまま従うというだけでは、審議会の名に値しない。

 附帯決議の意図がどうであれ、おかしいことは、率直におかしいといい、過ちは、憚ることなく、これを改める。労政審のメンバーには、公労使いずれの委員であるかを問わず、そうした本来の責務を全うされるよう、切望したい。

 

注1:拙著『職場の法律は小説より奇なり』(講談社、2009年)197~201頁を参照。つまり、派遣労働者が増えたといっても、それは常用代替の結果ではないことに注意。

注2:拙著『労働法改革は現場に学べ!――これからの雇用・労働法制』180~185頁を参照。

注3:事前面接の禁止が、野党が強く非難した派遣労働者の「モノ扱い」に通じる問題を含んでいる点については、拙著『労働法改革は現場に学べ!――これからの雇用・労働法制』107~108頁を参照。なお、現行法(改正後の派遣法26条6項)は、努力義務規定にとどまっているが、大臣告示(派遣先指針)でこれを禁止するという、異常な状況にある。

注4:パートタイム労働法(短時間労働者の雇用管理の改善等に関する法律)8条と労働契約法20条は、見出しにこそ違いがあるものの、規定内容に基本的な差異はない。なお、その問題点については、拙著『労働法改革は現場に学べ!――これからの雇用・労働法制』102~104頁を参照。

 

小嶌 典明氏(こじま・のりあき)1952年大阪市生まれ。神戸大学法学部卒業。大阪大学大学院法学研究科教授。労働法専攻。小渕内閣から第一次安倍内閣まで、規制改革委員会の参与等として雇用労働法制の改革に従事するかたわら、法人化の前後を通じて計8年間、国立大学における人事労務の現場で実務に携わる。最近の主な著作に『職場の法律は小説より奇なり』(講談社)、『労働市場改革のミッション』(東洋経済新報社)、『国立大学法人と労働法』(ジアース教育新社)、『労働法の「常識」は現場の「非常識」――程良い規制を求めて』(中央経済社)、『労働法改革は現場に学べ!――これからの雇用・労働法制』(労働新聞社)、『法人職員・公務員のための労働法72話』(ジアース教育新社、近刊)等がある。

 

 

 

 


 

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