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2016年1月11日

介護・育児休業の使い勝手は向上するか

法改正で取得を後押し、労政審の建議

 労働政策審議会の雇用均等分科会(田島優子分科会長)が昨年暮れ、厚生労働相に建議した「育児・介護休業の見直し」は、安倍政権が打ち出した「一億総活躍社会」の実現に向けた主要政策の一環だ。政府は「新3本の矢」として「強い経済(GDP600兆円)」、「子育て支援(出生率1.8)」、「介護離職ゼロ」を掲げたが、子育て支援と介護離職防止には現行の育児・介護休業法などの使い勝手が悪く、改正が必要だった。厚労省は13日に改正法案要綱(雇用保険法、育児・介護休業法、男女雇用機会均等法など)を同分科会に提示し、法案を今国会に提出して2017年度の実施(一部、項目により施行日は異なる)を目指している。(報道局)

現行制度の介護休業取得は93日を上限に1回

is160111.png 均等分科会では介護休業が主要論点として取り上げられた。総務省の就業構造基本調査によると、家族などの介護で離職を余儀なくされる人は毎年7~9万人にのぼり、2011年度では約9.5万人、そのうち8割以上が女性となっている=グラフ。介護離職が絶えない理由の一つに、介護休業制度の使い勝手の悪さがあり、実際に介護をしている約240万人のうち、支援制度を利用している人の割合は16%で、そのうち介護休業制度の利用者はわずか3.2%に過ぎない。

 現行制度では、介護休業は93日を上限に1回しか取得できないため、休業期間が長くなると職場復帰が困難になり、結局は離職するケースが多いのが実情だ。このため、同分科会では93日という期間は変えないものの、取得回数を3回に分割して使いやすくすることを提言した。分割取得できれば、仕事を続けながら家族を在宅介護から施設介護へスムーズに移行できるといったことが可能になり、離職の防止につながる。また、介護休業を取らない間も、社員が勤務時間短縮やフレックスタイム制など、どれか利用できるよう、企業に努力義務を課した。

 一方、育児休業については正社員に比べて非正規社員(有期契約労働者)の取得が困難な点が問題となった。現行では(1)同一企業での雇用期間が1年以上(2)子供が満1歳になってからも雇用が見込まれる(3)子供が1歳になった後、1年の間に契約期間が終わる人は除く――といった要件が必要になる。しかし、(2)の要件は労使双方にとってわかりにくいことから削除し、(3)の「1歳」を「1歳半」に延長した。

 また、介護休業についても、現行では(1)同一企業での雇用期間が1年以上(2)93日の休業日を過ぎてからも、引き続き雇用が見込まれる(3)93日経過後、1年以内に契約期間が終わる人は除く――という要件が必要だが、育児休業と同様に(2)を削除し、(3)の「1年」を「6カ月」に短縮することで、取得を容易にする措置を講じた。

 また、妊娠などを理由に職場から退職などを迫られるマタニティー・ハラスメント(マタハラ)も、派遣労働者を中心に2割以上の女性が経験しており、実際に解雇・雇い止めに遭った人も5%以上いたとの調査があることから、これらが男女雇用機会均等法の「不利益な取り扱い」に該当するとして、同法の改正も提言した。

長時間労働の是正には踏み込まず

 同分科会の議論では、使用者側委員から「労務管理が複雑になる」「中小企業はケースバイケースで対応している」などを理由に難色を示す意見が出たものの、人手不足の長期化を背景に介護離職が企業に取っても大きな問題になっていることから、改正論議は比較的スムーズに進んだ。しかし、これらの問題の主な背景には「男性正社員の長時間労働」があり、それを是正しない限り、改正の効果は限定的なものになるため、建議でも男性の育休取得の低さに絡めて「長時間労働の是正」を盛り込んだが、問題の根が深いこともあって最後は部分改正にとどまった。

 今回の法改正によって実際に出生率が上がり、介護離職が本当に減るかどうかは不透明だ。「法制度の整備よりも、企業経営者の意識改革の方が先決」との意見も根強く、「一億総活躍」の実現には企業の積極姿勢も欠かせない要件となりそうだ。

 

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