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2016年5月 9日

15年度有効求人倍率、完全失業率から

雇用指標は"絶好調"だが、給料は安い

 2015年度の雇用情勢は大幅な改善をみせた。厚生労働省の年間有効求人倍率は1.23倍と6年連続で上昇、総務省の年間完全失業率も3.3%と6年連続で低下しており、仕事に就く人が増えていることが鮮明になっている=グラフ。とりわけ15年度は、正社員の増加数が非正規社員の増加数を上回った。人手不足の長期化で、多くの企業が社員の待遇改善に動いたことが正社員増の要因の一つとみられ、今後は賃金の動向が大きな焦点になる。(報道局)

is160509.png 平均就業者は約6388万人(前年度比28万人増)となり、産業別では医療・福祉が791万人(同32万人増)と大きく増えたのをはじめ、サービス業が408万人(同7万人増)、情報通信業が208万人(同5万人増)と人手不足の顕著な業種で増加が目立った。

 雇用形態別では正社員が約3327万人(同30万人増)に増えた。非正規社員も約1986万人(同22万人増)に増えたが、正社員の増加数を下回った。正社員の場合、女性の増加が顕著で25万人増え、男性の5万人増を大きく上回った。パート従業員の正社員化などが進んだ結果とみられる。

 一方、非正規社員では女性が1351万人(同18万人増)で、男性の636万人(同5万人増)に対して就業数でも増加数でも大きく上回った。男性の場合、15~64歳の年代が485万人(同10万人減)だったのに対して、65歳以上が151万人(同15万人増)に増え、男性非正規の増加は退職後の高齢者層の増加によることが鮮明になっている。

 厚労省の新規求人数(新卒を除く)を業種別にみると、不動産、飲食の求人が二ケタ増となっているのをはじめ、小売り、教育・学習支援、福祉・介護などでも求人が増えており、慢性的な人手不足が深刻化している。このため、外食チェーンや食品スーパーなどで、パート・アルバイトの限定正社員化や非正規社員の賃金アップなど、待遇改善に踏み切って人手確保に努める企業が相次いでいる。

「賃上げ停滞」→「消費低迷」のリスク回避を

 女性や高齢者の就業増加は、安倍政権が進めている「一億総活躍プラン」の一面を先取りしているが、今後の課題はそれに見合った賃金の上昇だ。近く発表予定の同プランでは「同一労働同一賃金」の実現や長時間労働の是正など、賃金面での処遇改善が最大の焦点になりそうだ。

 厚労省の毎月勤労統計調査では、15年(暦年)の年間平均で現金給与総額、所定内給与とも前年を少し上回ったものの、物価上昇分を差し引いた実質賃金は0.9%減と4年連続のマイナスを記録した。今年の春闘では、非正規の賃上げ幅が大きかったことから、16年度は5年ぶりのプラス転換が期待されているが、17年度に予定されている消費増税の行方が微妙な影を落としている。

 しかし、これまでの賃金水準が不十分だったことは、統計的にもはっきりしている。国民経済計算のうえでは、14年度の家計の可処分所得は約289兆円で、ピークだった97年当時の約308兆円より20兆円近くも少なく、その原因が雇用者報酬の減少にあるからだ。

 個人消費低迷の主因は所得の伸び悩みにあると考えられ、連合が「全労働者の底上げ」を最大目標に掲げるのも、そのためだ。ニッセイ基礎研究所の斎藤太郎経済調査室長は「国内最大のリスクは、14年に始まった賃上げが停滞することで個人消費の回復がさらに遅れ、経済の好循環に向けた動きが途切れてしまうことだ」と分析、「賃上げ停滞のリスク」を強調している。

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