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2016年10月24日

サポートセンター「2016年雇用問題フォーラム」の記録(2)

連合・逢見事務局長の時局講演、濱口氏の講演要旨

is161024_1.jpg 「これからの雇用社会と人材サービスの役割」をテーマに開かれた「2016年雇用問題フォーラム」=写真上=には、逢見直人・連合事務局長、濱口桂一郎・労働政策研究・研修機構主席統括研究員、水町勇一郎・東大社会科学研究所教授、佐藤博樹・中央大大学院戦略経営研究科教授の4人の識者が登壇した。今回はこのうち、逢見氏=写真中=の特別講演(時局講演)と、濱口氏=写真下=の講演の要旨を紹介する。(報道局)

逢見事務局長「業界と締結した『共同宣言』、互いに尊重を」

 本日のテーマは時局講演、つまり時事ネタにした。まず、連合と業界の昨今の動きを示す資料として、連合と日本人材派遣協会、連合と日本生産技能労務協会とそれぞれの間で交わした「共同宣言」の全文を用意した。ご存知の方もおられるだろうし、もしかしたら初めて知る人もいるだろう。実は、これは初めてではなく、2010年春に「労使それぞれがどのような役割を果たすか」を明文化した第一弾となる「共同宣言」を締結している。今般、昨年9月の労働者派遣法の改正を受けて、あらためて内容を磨いて宣言した。「キャリアアップ」をひとつのキーワードに、共同宣言をまとめている。現在、宣言の出しっ放しにならないよう、互いにフォローアップ活動を進めている。事業者の人たちには、この「共同宣言」の趣旨をご理解いただきたい。

インターバル規制や36(さぶろく)協定など一連の見直し、労組として本格的に取り組む

is161020_2.jpg 安倍政権が誕生して、この12月で4年になる。経済最優先で突き進んできた。結果として現在、「デフレ脱却はしていないが、デフレ状態ではない」というのが政府答弁だ。大企業の業況感は良好で、内部留保が大きくなっている。景況は中小企業との格差があり、または都市部と地方の間でもある。

 私の見方だが、第一の矢である「金融緩和」はうまくいった。確かに株は上がった。日銀が物価2%にするといって異次元の金融緩和に乗り出し、マイナス金利まで導入。しかし、マイナス金利には副作用もある。日銀にこれ以上の“弾出し”はないだろう。第一の矢は終わった。さて、第二の矢である「財政出動」はどうか。財源には限界がある。財源の多くは建設国債なのが実態で、次世代によほど良いものを作らなければ一過性のものとなる。

 そして、第三の矢の「成長戦略」。ここについては、当初から少しずつ言うことが変化している。3年前からの政府の日本再興戦略を振り返ってみた。ポイントを読み解くと、トリクルダウン方式の経済の好循環の思考であることが分かる。2013年、「行き過ぎた雇用維持型から労働移動支援型の促進」を唱えた。そのために助成金を設ける。結果として、これはやはりうまくいっていない。みんな好んで労働移動したくない。安定していれば、職業人生を今いる場所で全うしたい。労働移動がすべてバラ色の世界でないことは多くの人が分かっている。

 そうした中で、昨年あたりから出てきたのが「一億総活躍プラン」だ。子育て、介護、非正規待遇、最低賃金など。人口減少社会を背景に、正面から立ち向かわないといけないとし、企業の現在の働かせ方自体が人口減少につながっているとの発想で、「企業はミクロで対応するが、国がマクロで引っ張らないと」との境地に至ったようだ。これは良いことだと思う。女性、高齢者など、これまで労働市場の中心に置かれなかった人にスポットをという考え方。筋の通ったものと評価するが、もともと我々(労働組合)が掲げていた方向に向こうが近づいてきたということでもある。

 それにしても、8月3日の安倍首相の「非正規という言葉を一掃する」という宣言には驚いた。「最大のチャレンジ」だと強調した。働き方改革実現会議を9月に立ち上げ、連合から神津里季生会長が入っている。政労使会議は労使同数だが、今回の働き方改革に労働側は一人。バランスがとれないから発言時間を3倍くれ、と言ったら、それは勘弁してくれというやり取りもあった。こうした会議は初会合が大事。連合は口頭での発言、主張の時間に制約があるとみて、資料を提出している。政府の同会議のホームページに掲載されている。同一労働同一賃金に関する記述もある。政府は、正規と非正規の賃金格差は、現在の6割から8割ぐらいにもっていきたい意向だろう。具体的にそうなっていくのかは別だが、念頭にあるのはそのあたりだと見ている。

 長時間労働に関しては、新聞記事のアドバルーンが先行しすぎている感もある。例えば、36(さぶろく)協定は大臣告示に今でもある。特別条項に上限を入れた方が良いのか。そこまでやるのか。官邸の秘書官が先走りしているのではとの声もあるが、原則で抜け道があるのは決していいことではない。さらに、労働組合としては、労働時間のインターバル規制は入れたい。特に、ブラック企業。夜勤明けで翌朝通常労働はダメ。これにも法的規制が必要だ。結論が出ていないので、どう展開していくかは未知数な部分もあるが、内閣が自分の責任でやろうとしているのだから注視して、労働組合も本格的に取り組みたい。
 

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「労働関係と人材サービス」と題して講演、濱口氏

is161020_3.jpg 濱口氏は、今年の勉強会の通年テーマである「労使関係と人材サービス」において、すべて登壇してきた経緯を含め、コーディネート役としてのまとめ的な要素も合わせて講演した。そして、「労使関係というテーマ自体が、今、あまり受けないテーマ。もちろん、国政の重要課題だが、枠組みそのものの議論は、1960年代のあたりとはかなり存在感が違っていた」と切り出し、「戦後の歴史の本には、集団的労使関係の話はあった。しかし、昔のものはあっても、この数十年はきちんと論じられたものはない」と指摘し、研究から見えてきた日本における労使関係の歴史をたどりながら、分かりやすく解説した。

 濱口氏の資料を踏まえてポイントを紹介すると、
「労使関係というテーマにこだわる」、「労使関係の基礎理論(1)」、「労使関係の基礎理論(2)」、「労使関係の近代化論」、「産業別団体交渉の盛衰」、「デフレ下の企業別交渉の沈滞」、「同一労働同一賃金の再登場」、「集団的労使関係への関心再燃」、「労使関係システムへの課題」、「労働市場という視点の導入」と説明、解説し、最後に「人材サービス業の新たな役割」と結んだ。

 基礎理論の項目では、戦後の労働三法の原案審議に参加し、中央労働委員会の会長も務めた藤林敬三氏の著書「労働関係と労使協議制」を読み解きながら、「日本の労働組合の圧倒的大部分は企業別組合で、労使関係の第一次関係と第二次関係とが混在。癒着し、不分離状態にある」としたうえで、「本来、協力の傾向にある親しい関係の者が互いに相争うことになると、他人同士の争い以上に激しくなる。第二次関係に基づく労働争議が他人同士のビジネスライクな争議であり、決着すればそれで済むのに対して、第一次関係に基づく労働争議は親類縁者同士の骨肉の争いとなり、お互いに怨み骨髄に入る」と指摘した。

 「労使関係の近代化論」では、1950~60年代に「職種と職業能力に基づく近代的な労働市場」や「同一労働同一賃金原則に基づく職務給」が唱道されていた事実を押さえ、「同一労働同一賃金の再登場」の項目で、「70~80年代は日本型雇用システムが称賛され、『近代化論』が忘れ去られた時代」、「90年代からは非正規労働の拡大とともに、均等・均衡処遇が問題化」、「2010年代からは同一労働同一賃金が再び国政の重要課題に浮上した」と、背景と経緯を説明した。

戦後のほとんどの労働組合は労働力の需給調整機能を持たず

 「労働市場という視点の導入」では、イギリスの社会・経済学者であるウェッブ夫妻「産業民主制」を紹介。この項目の中で、「労働力需給調整システムと労使関係システム(労働条件決定システムと労働紛争調整システム)は密接不可分だった」、「戦後のほとんどの労働組合は労働力需給調整機能を持たず」、「職業紹介事業、労働者供給事業を実施する労働組合はほとんどないに等しい」と、実態を解いた。

 今年の勉強会の第一回から第三回まで、また今回の「労使関係のまとめ」を踏まえ、「人材サービス業の新たな役割」について、人材サービス業は岐路に立っているとの視点から下記の3つの課題と問い掛けをして締めた。

 「日本に根づかなかったジョブ型基幹的労働市場を構築できるのは誰か?」
 「企業ごとの年功賃金から独立したジョブに基づく賃金制度を構築できるのは誰か?」
 「ジョブに焦点を当てた高度の職業教育訓練を労働市場の中で実施できるのは誰か?」
 

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