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2016年10月31日

サポートセンター「2016年雇用問題フォーラム」の記録(3)

水町勇一郎氏、佐藤博樹氏の講演要旨

is161026_1.jpg 「2016年雇用問題フォーラム」で登壇・講演した4氏のうち、今回は「労働法制改革と人材サービスの課題」と題して講演した水町勇一郎・東大社会科学研究所教授と、「企業の人材活用と人材サービス業」と題して講演した佐藤博樹・中央大大学院戦略経営研究科教授の要旨を紹介する。(報道局)

「労働法制改革と人材サービスの課題」と題して講演、水町氏

is261024_2.jpg 水町氏は「ここ数年、労働法制の改革が早いスピードで進んでいる」と強調し、昨今の主な関係法令の改正が人材サービスにどのような影響を与えるのか、留意点と見解を示した。具体的には(1)2013年4月施行(一部を除く)の改正労働契約法、(2)2015年9月施行の労働者派遣法、(3)2017年1月に施行となる改正育児介護休業法(雇用保険法・男女雇用機会均等法などを含む)、(4)同一労働同一賃金をめぐる動き――の順に説明し、全体として「2018年に向けていかに対応するか」に焦点を絞った。

 労契法では、無期労働契約への転換(18条)、有期労働契約の更新等(雇止め規制・19条)、不合理な労働条件の禁止(20条)のポイントを紹介したうえで、「18条に基づく無期転換の申し出を受けた場合にどうするか。5年を超えない対応で18条を逃れられるかというと、19条に引っかかる。『雇用契約の期待がでる』との判例もある。つまり、継続5年に達する直前に簡単には雇止めはできないことを認識してもらいたい」と説いた。加えて、無期転換とする際においても、「確かに、無期雇用の労働条件が正社員と同じわけではない。しかし、これまでより待遇を上げる、例えば、正社員と有期契約の真ん中あたりの処遇が妥当となるだろう。そこを真剣に考えるべき」と指摘した。

 派遣法では、期間制限と雇用安定措置を主軸に主な改正項目をおさらいした後、「雇用安定措置では3年継続して勤務した場合に派遣元に義務付けられ、1年以上継続した勤務が見込まれる時点で努力義務となっている。努力義務はそのうち義務になる時が来るかもしれない」との見解を述べた。また、無期雇用化の流れを踏まえ、「派遣元で無期雇用された場合には、職務内容も含めて『期間制限などの縛りを回避できる』とも言えるが、その際は派遣料金の上積みを求めるのが妥当ではないか」との見方を示した。

 育介法の関係では、「育児休業より介護休業は予測できない。年代や性別、重責にある人でも突然に起こり得る。さらに、いつまで辺りまでの休業だというお尻が分からない」と、介護休業の難しさと特徴を述べたうえで、「ここで必要になるのは、専門性の高い派遣の人材だ。残された直接雇用の人員ではカバーできない、そこを補う専門性の高い外部人材のニーズが求められるだろう」と、今後の方向性を示唆した。

同一労働同一賃金の導入までの見通しについて

 現在、政府主導で進められている同一労働同一賃金の導入について水町氏は「合理的な賃金や待遇の差は何をもって許さるのか。合理的でないものはダメだという事例のガイドラインが今年の12月までに決まる。関連する法改正は19年4月から施行の見込みだ。ガイドラインは、現行の有期契約労働者に関する労契法20条とパート法8条に関する解釈を示すような内容になるかもれないが、それを踏まえた法改正は、有期とパートと派遣に関する一括改正が想定される」との見解を示した。

 それらの動きを押さえながら、「派遣先の処遇との均衡がより強く求められ、コスト削減型から専門性の高いサービス提供にビジネスモデルが変わるかもしれない」と締めた。

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「企業の人材活用と人材サービス業」と題して講演、佐藤氏

is161024_3.jpg 人事管理が専門の佐藤氏は、人材活用の現場実態と課題を軸に、多面的な角度から示唆に富む知見を披露した。冒頭、水町氏の講演の中から「派遣元での無期雇用の場合」について取り上げ、「昨年の派遣法改正で一番の問題はそこにある。無期雇用は否定しないが、派遣元の無期雇用派遣だと派遣先が3年を超えて受け入れられることを認めてしまったのが最大の問題。それだけ長期に欲する業務であれば企業が直接雇用すべき」と指摘。「無期派遣の場合でも、基本的には派遣社員を3年以内に動かすことが必要ではないか。汎用的スキルを派遣社員にどのように付けていくかが大切で、特定の会社だけに長く派遣する、あるいは受け入れてもらうということは、その派遣社員のスキルアップにつながらず次の派遣先が難しくなる」と説いた。

 講演資料の項目テーマのタイトルごとに、課題と問い掛け、ポイントなどが盛り込まれており、企業経営における人事管理の役割として「企業において人事管理が担うべき役割」、「人事管理の出発点は『人』か?『業務(仕事)』か?」、「人事管理では『人』も重要」、「人事管理には複眼的視点が不可欠」――を解説。企業環境の変化と人事管理の課題として「企業の将来に関する不確実性の増大」、「企業の人材活用上の課題(人事管理の課題)」、「労働サービス需要の充足策」、「企業環境の不確実性増大へ人材活用面での対応策」、「数量的柔軟性の向上策」、「機能的柔軟性の向上策」、「4つの柔軟性の均衡維持=人事管理の新しい課題」――を掘り下げた。

就業者のキャリアチェンジの必要性の高まり

 人材活用の課題と現状と近い将来の展開を踏まえ、佐藤氏は「企業の存続と就業者の雇用可能性に言及。特定企業における雇用の継続を実現するには企業の労働サービス需要を充足できる職能要件の獲得が不可欠」と強調。それに連動して(1)機能的柔軟性を担える人材のみが継続的な雇用の機会を獲得できる、(2)就業者が、希望するキャリアの実現や雇用機会を得るためには、機能的柔軟性の向上に加えて、企業外も含めたキャリアチェンジを受容することの必要性も高まる、(3)職業紹介業などの人材サービス業には、就業者のキャリアチェンジ支援が重要になる――と3つの解を挙げた。

 講演全体の中で佐藤氏は、ポイントとして「人材サービス業は、企業の人材活用の支援と連携が重みを増し、派遣業の営業担当者や請負業の生産現場の責任者、職業紹介業のコーディネーターの職業能力の高度化が不可欠になる」と力説。また「派遣元と派遣先が連携していると、派遣社員が意欲的になる。コンプライアンスとコストだけでなく、人事管理できる派遣元がこれからのカギとなる」と結んだ。

 

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