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2017年1月 1日

<特別寄稿>大阪大学大学院法学研究科教授 小嶌 典明さん

続・「同一労働同一賃金」について~公務員にとっては他人事の世界~(4)

Ⅲ 非常勤職員の手当支給

非常勤職員に対する手当支給が法律上認められない地方公務員

iskojima.jpg 常勤職員に対しては、給料および旅費に加え、数多くの種類の手当支給を認める一方で、非常勤職員に対しては、報酬の支給と費用弁償のみを認める。地方自治法には、このことを明文の規定をもって定めた、以下の条項が存在する(下線は筆者による。以下同じ)。

第203条の2 普通地方公共団体は、その委員会の委員、非常勤の監査委員その他の委員、自治紛争処理委員、審査会、審議会及び調査会等の委員その他の構成員、専門委員、投票管理者、開票管理者、選挙長、投票立会人、開票立会人及び選挙立会人その他普通地方公共団体の非常勤の職員(短時間勤務職員を除く。)に対し、報酬を支給しなければならない。
② 前項の職員に対する報酬は、その勤務日数に応じてこれを支給する。ただし、条例で特別の定めをした場合は、この限りでない。
③ 第1項の職員は、職務を行うため要する費用の弁償を受けることができる。
④ 報酬及び費用弁償の額並びにその支給方法は、条例でこれを定めなければならない。
第204条 普通地方公共団体は、普通地方公共団体の長及びその補助機関たる常勤の職員、委員会の常勤の委員(教育委員会にあっては、教育長)、常勤の監査委員、議会の事務局長又は書記長、書記その他の常勤の職員、委員会の事務局長若しくは書記長、委員の事務局長又は委員会若しくは委員の事務を補助する書記その他の常勤の職員その他普通地方公共団体の常勤の職員並びに短時間勤務職員に対し、給料及び旅費を支給しなければならない。
② 普通地方公共団体は、条例で、前項の職員に対し、扶養手当、地域手当、住居手当、初任給調整手当、通勤手当、単身赴任手当、特殊勤務手当、特地勤務手当(これに準ずる手当を含む。)、へき地手当(これに準ずる手当を含む。)、時間外勤務手当、宿日直手当、管理職員特別勤務手当、夜間勤務手当、休日勤務手当、管理職手当、期末手当、勤勉手当、寒冷地手当、特定任期付職員業績手当、任期付研究員業績手当、義務教育等教員特別手当、定時制通信教育手当、産業教育手当、農林漁業普及指導手当、災害派遣手当(武力攻撃災害等派遣手当及び新型インフルエンザ等緊急事態派遣手当を含む。)又は退職手当を支給することができる。
③ 給料、手当及び旅費の額並びにその支給方法は、条例でこれを定めなければならない。


 地方自治法203条3項は、「条例で、その議会の議員に対し、期末手当を支給することができる」と規定しており、これらの規定を併せ読めば、非常勤職員に対しては期末手当を含む手当を一切支給できないという解釈(反対解釈)が導かれる。

 確かに、東京都のように、地方自治法203条の2第1項にいう「報酬」を拡張解釈して、通勤手当や時間外勤務手当に相当する額を、報酬として支給している地方公共団体はある(東京都「非常勤職員の報酬及び費用弁償に関する条例施行規則」6条1項および8条を参照。なお、東京都では、時間外勤務手当のことを超過勤務手当という)。また、大阪府のように、通勤手当に相当する額を、費用弁償の形で支給しているところも存在する(大阪府「非常勤職員の報酬及び費用弁償に関する条例」3条を参照。なお、大阪府も、時間外勤務手当に相当する額は、報酬に含めて支給している。同条例2条5項を参照)。

 とはいえ、多くの地方公共団体の場合、それが限度となる。つまり、時間外勤務手当や通勤手当に相当する額を除けば、支給を行っていないのが現状といえる(注1)

 ちなみに、地方自治法203条の2第1項および204条1項にいう「短時間勤務職員」とは、常勤職員が定年退職後、短時間勤務(週15時間30分以上31時間以下)の再任用職員として採用された場合をいい(同法92条2項を参照)、このような再任用短時間勤務職員に対しては、常勤職員と同様に、給料および旅費のほか、諸手当の支給が可能とされる。期末手当等の支給月数は、定年前の常勤職員のおよそ半分になるとはいえ(注2)、パートタイムの再任用職員のほうがフルタイムの非常勤職員よりも「優遇」される、という逆転現象がここでは生じている。そうした問題にも留意する必要があろう。

国家公務員の非常勤職員に対する手当支給も、現実は大差なし

 これに対して、国家公務員の場合、地方公務員とは違い、非常勤職員に対する手当支給に法律上の制約はない。超過勤務手当に相当する給与は、「予算の範囲内」(給与法22条2項)という事実上の「制約」はあれ、従前から支給されていたし、通勤手当に相当する給与についても、でみた2008年8月の人事院事務総長名の通知「一般職の職員の給与に関する法律第22条第2項の非常勤職員に対する給与について」が「通勤手当に相当する給与を支給すること」として以来、上限額が常勤職員の月額5万5000円(給与法12条2項1号を参照)よりも低く設定されている可能性はあるものの、支給対象となる非常勤職員については、その全員が支給を受けているという(注3)

 ただ、上記通知も、期末手当に相当する給与については「相当長期にわたって勤務する非常勤職員に対して、・・・・勤務期間等を考慮の上支給するよう努めること」とするにとどめたこともあって、その支給を受けるのは、「一週間の勤務時間が常勤職員と同じ38時間45分の期間業務職員」にほぼ限られている(注4)

 また、退職手当の支給については、国家公務員退職手当法が適用される非常勤職員には全員支給とはされているものの、「常勤職員について定められている勤務時間以上勤務した日が18日以上ある月が引き続いて6カ月を超える」等の要件を満たさなければ、そもそも同法の適用を受けられない(注5)

 なお、このような現状は、法人化後の国立大学においても、概ね等しくみられるところであって、特別の作業に従事した場合に支給される高所作業手当等の手当を除けば、その支給は、法人化前から支給されていた通勤手当や超過勤務手当(これに類似する休日勤務手当、夜勤手当等を含む)の域を出ない、というのが現状となっている(注6)

 非常勤職員の給与は、あくまでその勤務日数=勤務実績に応じて支給するものであり、そうである以上、扶養手当や住居手当、寒冷地手当といった諸手当の支給は、端から問題とならない(注7)

 常勤職員とは違い、非常勤職員については、給与の支給に関しても「ノーワーク・ノーペイ」の原則が貫かれ、その全額が後払いとされている(国立大学の場合、月末締めの翌月17日払いが原則となる)(注8)ことも、勤務実績に応じて支給されるという、以上にみた非常勤職員の給与の性格を表しているといえる。

 しかし、勤務実績に応じて支給される手当であれば、非常勤職員に対しても支給されるというわけではない(逆は、必ずしも真ならず)。先にみたように、期末手当や退職手当が非常勤職員に支給されるのは、勤務時間が常勤職員と変わらないようなケースでしかない。それが現実であることも、確かなのである。

 

注1:地方公務員の場合、国家公務員とは異なり、一般職の職員であっても、労働基準法が原則として適用される(割増賃金について規定した37条も適用を除外されていない)ことに注意。地方公務員法58条3項を参照。
注2:東京都「職員の給与に関する条例」21条3項および21条の2第2項3号、大阪府「職員の期末手当及び勤勉手当に関する条例」2条3項および5条2項2号を参照。なお、給与法(19条の4第3項、19条の7第2項2号)がそのモデルとなっている。
注3:内閣官房内閣人事局「国家公務員の非常勤職員に関する実態調査」(2016年9月)を参照。
注4:同上調査によれば、「期末手当に相当する給与の支給については、一週間の勤務時間が常勤職員と同じ38時間45分の期間業務職員1万1807人のうち、期末手当に相当する給与を支給する予定の職員は1万1497人(97%)、一週間の勤務時間が常勤職員の3/4超38時間45分未満の期間業務職員1万8622人のうち、期末手当に相当する給与を支給する予定の職員は2080人(11%)、期間業務職員以外の非常勤職員2万5590人のうち、期末手当に相当する給与を支給する予定の職員は2200人(9%)」であったという。
 また、本調査によれば、勤勉手当に相当する給与についても、支給率こそ若干下がる(例えば、一週間の勤務時間が常勤職員と同じ期間業務職員についても、その支給率は78%にとどまっている)ものの、同様の傾向がみられる。
 ただ、人事院規則9-40(期末手当及び勤勉手当)は、非常勤職員に対する期末手当および勤勉手当そのものの支給は、これを認めていない。同規則1条4号および7条2号を参照。
注5:国家公務員退職手当法2条2項が「その勤務形態が職員に準ずるものは、政令で定めるところにより、職員とみなして、この法律の規定を適用する」と定めたことを受け、同法施行令1条1項2号は、これに該当する者を「職員について定められている勤務時間以上勤務した日(略)が引き続いて12月を超えるに至ったもので、その超えるに至った日以後引き続き当該勤務時間により勤務することとされているもの」と規定している。ただ、先にみたように、非常勤職員の任期は最大でも当該会計年度の末日までとされていることから、任期中に勤務した日が12カ月を超えることはあり得ない。とはいうものの、施行令の昭和34年改正附則第5項が次のように規定したことから、本文に記したような取扱い(「18日以上」の要件は、「国家公務員退職手当法の適用を受ける非常勤職員等について」(昭和60年4月30日総人第260号)による)となった。
 施行令「第1条第1項各号に掲げる者以外の常時勤務に服することを要しない者の同項第2号に規定する勤務した日が引き続いて6月を超えるに至った場合(略)には、当分の間、その者を同号の職員とみなして、施行令の規定を適用する。この場合において、その者に対する国家公務員退職手当法(略)第2条の4及び第6条の5の規定による退職手当の額は、同法第2条の4から第6条の5までの規定により計算した退職手当の額の100分の50に相当する金額とする」。
 なお、こうした事情から、年度末に退職する度に退職手当が支給される半面、その額はかなり低くなる(1年勤務して0.435カ月分、自己都合退職の場合は0.261カ月分。ちなみに、東京大学では、法人化前に勤務時間が常勤職員と異ならない日日雇用職員として在職し、現在も常勤職員と同じ時間勤務している非常勤職員に対して、基本給の21日分に0.3を乗じた退職手当を支給している。「東京大学短時間勤務有期雇用教職員就業規則」附則8条2項および同規則の末尾に定められた支給率表を参照)。
注6:「東京大学短時間勤務有期雇用教職員就業規則」53条2号を参照。
注7:なお、これらの手当は、再任用職員に対しても支給されない。給与法19条の8第3項のほか、「国家公務員の寒冷地手当に関する法律」1条を参照。
注8:「東京大学短時間勤務有期雇用教職員就業規則」76条3項を参照。なお、そこでは基本給のほか諸手当についても、「勤務実績に応じた分について」支給すると規定されていることに注意。


 

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小嶌 典明氏(こじま・のりあき)1952年大阪市生まれ。神戸大学法学部卒業。大阪大学大学院法学研究科教授。労働法専攻。小渕内閣から第一次安倍内閣まで、規制改革委員会の参与等として雇用・労働法制の改革に従事するかたわら、法人化の前後を通じて計8年間、国立大学における人事労務の現場で実務に携わる。
  最近の主な著作に、『職場の法律は小説より奇なり』(講談社)のほか、『労働市場改革のミッション』(東洋経済新報社)、『国立大学法人と労働法』(ジアース教育新社)、『労働法の「常識」は現場の「非常識」――程良い規制を求めて』(中央経済社)、『労働法改革は現場に学べ!――これからの雇用・労働法制』(労働新聞社)、『法人職員・公務員のための労働法72話』(ジアース教育新社)、『労働法とその周辺――神は細部に宿り給ふ』(アドバンスニュース出版)、『メモワール労働者派遣法――歴史を知れば、今がわかる』(同前)がある。

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