スペシャルコンテンツ記事一覧へ

2017年1月 5日

<特別寄稿>大阪大学大学院法学研究科教授 小嶌 典明さん

続・「同一労働同一賃金」について~公務員にとっては他人事の世界~(6)

休職制度のない非常勤職員

 公務員の世界でいう分限処分には、降任および免職のほか、休職が含まれる。このことに関連して、国家公務員法は、次のような定めを置く。

(本人の意に反する休職の場合)
第79条 職員が、[次]の各号の一に該当する場合又は人事院規則で定めるその他の場合においては、その意に反して、これを休職することができる。
一 心身の故障のため、長期の休養を要する場合
二 刑事事件に関し起訴された場合
(休職の効果)
第80条 前条第1号の規定による休職の期間は、人事院規則でこれを定める。休職期間中その事故の消滅したときは、休職は当然終了したものとし、すみやかに復職を命じなければならない。
② 前条第2号の規定による休職の期間は、その事件が裁判所に係属する間とする。
③ いかなる休職も、その事由が消滅したときは、当然に終了したものとみなされる。
④ 休職者は、職員としての身分を保有するが、職務に従事しない。休職者は、その休職の期間中、給与に関する法律で別段の定めをしない限り、何らの給与を受けてはならない。


iskojima.jpg そして、国家公務員法80条1項にいう「人事院規則」として、人事院規則11-4(職員の身分保障)があり、同規則の5条1項は、「[国家公務員]法第79条第1号の規定による休職の期間は、休養を要する程度に応じ、・・・・3年を超えない範囲内において、・・・・任命権者が定める。この休職の期間が3年に満たない場合においては、休職にした日から引き続き3年を超えない範囲内において、これを更新することができる」と規定している。

 そこで、国家公務員法79条1号にいう「心身の故障のため、長期の休養を要する場合」の休職(傷病休職)の期間は、最長3年ということになる。民間企業からみれば、異常に長いというのが、率直な感想であろう。

 他方、国家公務員法80条4項にいう「給与に関する法律」として給与法が存在し、同法は、休職者の給与について、次のような定めを設けている。

(休職者の給与)
第23条 職員が公務上負傷し、若しくは疾病にかかり、又は通勤(略)により負傷し、若しくは疾病にかかり、国家公務員法第79条第1号に掲げる事由に該当して休職にされたときは、その休職の期間中、これに給与の全額を支給する。
2 職員が結核性疾患にかかり国家公務員法第79条第1号に掲げる事由に該当して休職にされたときは、その休職の期間が満2年に達するまでは、これに俸給、扶養手当、地域手当、広域異動手当、研究員調整手当、住居手当及び期末手当のそれぞれ100分の80を支給することができる。
3 職員が前2項以外の心身の故障により国家公務員法第79条第1号に掲げる事由に該当して休職にされたときは、その休職の期間が満1年に達するまでは、これに俸給、扶養手当、地域手当、広域異動手当、研究員調整手当、住居手当及び期末手当のそれぞれ100分の80を支給することができる。
4 職員が国家公務員法第79条第2号に掲げる事由に該当して休職にされたときは、その休職の期間中、これに俸給、扶養手当、地域手当、広域異動手当、研究員調整手当及び住居手当のそれぞれ100分の60以内を支給することができる。
5 略
6 国家公務員法第79条の規定により休職にされた職員には、他の法律に別段の定がない限り、前5項に定める給与を除く外、他のいかなる給与も支給しない。
7・8 略


 いわゆる私傷病休職であっても、最初の1年間(結核性疾患の場合、2年間)は、俸給等(扶養手当や地域手当を含む)の8割が支給され、期末手当についても、その8割支給が保障される(なお、公務・通勤災害の場合は、最長3年間の休職期間中、給与の全額が支給される)。しかし、ここでも、その対象は、常勤職員に限られる。より正確にいえば、非常勤職員については、休職制度そのものがない(注1)

 任期が一会計年度内に限られ、会計年度が変われば、新たな採用となるような、長期にわたる任用を予定していない非常勤職員を、「長期の休養を要する」ために設けられた傷病休職の対象とすることは、休職制度の趣旨に反する。あるいは、こうした判断が働いたのであろうか、分限規定それ自体は、非常勤職員に対しても適用される建前にはなっている(注2)ものの、休職制度は常勤職員のためにあるという理解が確立している(注3)

 傷病休職の制度を、これに先行する病気休暇の制度とワンセットで考えると、公務員の休暇・休職制度における常勤職員と非常勤職員との格差は、民間企業には例をみないほどに大きい。こうした現実にも、目を向ける必要があろう。
 

注1:非常勤職員については、刑事(起訴)休職の制度もないが、ここでは触れない。
注2:分限規定については、非常勤職員を対象とした適用除外規定がないため、理論上はその適用があると解釈するほかない。
注3:東京大学を始めとして、非常勤職員を対象とした休職制度を持たない国立大学は、実際にも大半を占める。その多くは、法人化前と同様、欠勤(傷病欠勤)扱いとして、これを処理しているものと考えられる。

 

【関連記事】
<特別寄稿>大阪大学大学院法学研究科教授 小嶌 典明さん
「同一労働同一賃金」について
1 はじめに――閣議決定に対する素朴な疑問(6月6日)

2 法制化の歩み――それは労働契約法の改正から始まった(6月7日)

3 ヨーロッパの模倣――有期・パート・派遣の共通ルール(6月8日)

4 所詮は他人事――公務員に適用した場合、実行は可能か(6月9日)

5 まとめにかえて――賃金制度の現状と「同一労働同一賃金」(6月10日) 


小嶌 典明氏(こじま・のりあき)1952年大阪市生まれ。神戸大学法学部卒業。大阪大学大学院法学研究科教授。労働法専攻。小渕内閣から第一次安倍内閣まで、規制改革委員会の参与等として雇用・労働法制の改革に従事するかたわら、法人化の前後を通じて計8年間、国立大学における人事労務の現場で実務に携わる。
  最近の主な著作に、『職場の法律は小説より奇なり』(講談社)のほか、『労働市場改革のミッション』(東洋経済新報社)、『国立大学法人と労働法』(ジアース教育新社)、『労働法の「常識」は現場の「非常識」――程良い規制を求めて』(中央経済社)、『労働法改革は現場に学べ!――これからの雇用・労働法制』(労働新聞社)、『法人職員・公務員のための労働法72話』(ジアース教育新社)、『労働法とその周辺――神は細部に宿り給ふ』(アドバンスニュース出版)、『メモワール労働者派遣法――歴史を知れば、今がわかる』(同前)がある。

PAGETOP