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2017年10月23日

日本生産技能労務協会・青木秀登会長に聞く (上)

「無期転換ルール」など、新制度に前向き対応

 日本生産技能労務協会(JSLA・技能協)の新会長にランスタッド執行役員の青木秀登氏(49)が10月1日付で就任した。製造派遣・請負業界は来年、「無期転換ルール」の本格実施と、改正労働者派遣法(2015年改正)の施行3年の対応が重なる「2018年問題」を迎える。また、働き方改革に関連して「雇用形態にかかわらない均等・均衡待遇」に向けた法整備の動きが加速している。構造的な人手不足の中で、人材育成・高度化をどう進めるのか、青木新会長に聞いた。(聞き手・大野博司、本間俊典)

―― 新会長の基本方針や心境を聞かせてください。

sc171023_1.jpg青木 技能協発足から来年で30年、社団法人になってまもなく20年が経とうとしています。これまで積み重ねてきた実績を基に、業界のさらなる健全な発展を柱に方向性のぶれない活動を心掛けたいと思っています。

 2018年問題や働き方改革を迎えるこのような重要なタイミングに、歴史ある業界団体の会長という大役をあずかり、その重責を感じるとともに身の引き締まる思いがしています。常に一歩先を見据えて、立ち止まることなく前進していく所存です。

―― 来年4月から、改正労働契約法に基づく「無期転換ルール」が実施されます。また、改正労働者派遣法に基づいて来年9月、派遣労働者の同一の組織単位への派遣期間と派遣先企業の受け入れ期間の「原則上限3年」について、それぞれ初めての満了日を迎えます。いわゆる「2018年問題」(注)への対応は。

青木 人材サービス業界にとっては大きな転換点であり、しっかり取り組まなければなりません。基本は派遣・請負労働者が安心して将来展望を持って働けるよう、これをチャンスに人材の価値をさらに高めたいと、前向きにとらえています。

 景気は堅調に推移しており空前の人手不足で業界も人材確保が困難になっていますので、無期転換する従業員が大幅に増えると予想しています。もともと私たちの業界は、以前から製造現場で正社員を雇用している企業も多いため、無期転換に円滑に対応できる企業もあると思います。

 また、技能協では、労契法が成立した2012年から、会員各社が準備しやすいように情報提供や一流の講師を招いたセミナーを繰り返し実施してきました。無期転換時のポイントや就業規則の作成・改訂などを中心に、今後も講演会などを開いて支援する計画です。企業と労働者の双方にとってスムーズな対応ができるよう注力します。

―― 業界の雇用維持・管理のコストが上昇することになりませんか。

青木 たしかに、業界として気になっているのは、無期の派遣を希望するクライアント企業との価格交渉です。派遣先企業には引き続き適正価格で良質のサービス提供を目指しますが、無期化による雇用維持・管理のためのコスト増は避けられません。そこをぜひ理解していただけるよう業界としてもクライアント企業に求めていきたいと思っています。

 ただ、この数カ月間の動きとして請求単価が急激に上昇する取引事例が見られるようになってきています。時間当たり200円から300円のアップ、特にコア業務で正社員を派遣するケースでは1000円アップする事例も見られるなど、今まででは考えられない請求単価上昇の動きが生じています。クライアント企業も人材確保が困難な状況や職場定着支援の必要性、無期雇用による優秀な人材の確保などに理解が深まってきているものと思っています。そして、この流れを無期転換への円滑な対応につなげていきたいと考えています。

―― 今年9月に労働政策審議会が答申した働き方改革に関連する法改正・法整備の中には、同一労働同一賃金の導入に向けて「雇用形態にかかわらない均等・均衡待遇」が盛り込まれました。派遣労働者についても、派遣法の改正を通じて、(1)派遣先の労働者との均等・均衡による待遇改善、(2)派遣元との労使協定による一定水準を満たす待遇決定――の選択制「2方式」が挙がっています。どう対応しますか。

青木 働き方改革は、少子高齢化や労働力不足が現実となっている現在、業界としても前向きに取り組むべき課題と認識しています。同一労働同一賃金の派遣法の改正についてはどのような手法と目安で「均等・均衡」を実現すべきなのか、まだ詳細は定まっていません。

 (1)の派遣先均等・均衡方式と(2)の労使協定方式を比べると、前者は派遣先の賃金水準が企業ごとにまちまちである現状を考えれば、派遣先が変わるたびに派遣労働者の賃金が変動することが懸念されます。一方、労使協定方式では、そのような問題は生じませんが、その前提条件となる「一定水準を満たす基準」をどのように設定するのか、実際の運用がどうなるのか。法案成立後に労政審で詰めるテーマとなっているので、今後の議論の経過を注目しています。

 また、均等・均衡待遇を考える際に、日本の大多数の企業では、正社員の賃金は年齢と職能を組み合わせた右肩上がりの賃金体系を取っており、欧米のようにポストで決まる職務給体系とは基本的に異なっている点は無視できません。日本では正社員は職能給、いわゆる非正規社員は職務給の性格が強いので、どうすれば両者の「均等・均衡」が図れるのか、むずかしい問題です。ぜひ現場実態を勘案した議論をお願いしたいと考えています。

 いずれにしても、「雇用形態にかかわらない均等・均衡待遇」は、私たち製造派遣・請負業界としてぜひ実現し、この業界で働く皆さんに生き生きと誇りを持ってもらえるよう努力を重ねていきます。(つづく)

 

注:2018年問題 2013年施行の改正労働契約法に基づき、来年4月から通算5年以上の勤務実績のある有期契約労働者は無期契約の転換権を得られるルール。また、15年9月施行の改正派遣法では、派遣期間の上限3年、派遣先企業の受け入れ期間も原則上限3年の規制が設けられ、来年9月末から本格適用される。

 

青木 秀登氏(あおき・ひでと)1967年、群馬県出身。1994年、ランスタッドの前身にあたるフジスタッフグループに入社。グループ内のインターエージェント、アイプレスの代表取締役社長やアイラインの取締役などを歴任して、2011年ランスタッド・ジャパン設立時に執行役員となり現職。2005年に同協会の理事に就き、政策広報委員長などを歴任し、2013年から副理事長を務めてきた。今年9月20日の理事会で会長に就任。

 

【日本生産技能労務協会】国内唯一の製造派遣・請負の業界団体で、加盟・準加盟、賛助会員など約150社。製造業で働く派遣労働者の約半数を占める。労働者の労務・管理の安全を図り、製造業が必要とする技能労務者の養成を行う。公益法人制度改革に対応し、2012年から一般社団法人へ移行。事務局は東京都港区。略称は英語の頭文字を取った「JSLA」または「技能協」。ホームページはhttp://www.js-gino.org/
 

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