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2017年11月20日

人材サービス産業協議会の「人手不足と働き方改革」シンポジウム(下)

経営者が「採用と人材活用」の事例紹介、人材サービスに提言も

n171120_1.jpg 人材サービス産業協議会(JHR)が11月9日に開催したシンポジウム=写真上。「人手不足と働き方改革」をテーマにした福岡市での討論は、第二部で地元企業による採用・人材活用の事例発表、第三部で人材サービスへの提言などを含めたパネルディスカッションを繰り広げた。前回の本欄で掲載した主催者から参加者への呼び掛けと基調講演の詳報に続き、シンポジウム後半の発言要旨を紹介する。(報道局)

「働く意識の変化」や「雇用形態の多様化」への対応がカギ

 第二部の事例発表に登壇したのは、新たな観点から採用・人材活用に挑戦している、クックチャムプラスシー(福岡市博多区)の竹下啓介社長と、関家具(福岡県大川市)の関文彦社長が、企業の特性や特徴を踏まえて事例紹介。また、企業再生の実績を持ち、現在、内閣府事業の長崎県プロフェッショナル人材拠点・統括マネージャーとして長崎県の地方創生にあたっている渋谷厚氏が、プロフェッショナルの人材戦略について説いた。

n171120_2.jpg トップバッターは、手作り総菜専門店の竹下社長=写真左=で、地方の中小企業がどのように「働き方改革」に挑んでいるか、その取り組みや課題などを紹介した。現場で働く人の声や要望を大切にする「ボトムアップ型」に切り替えてきた経験などから、「店舗の人員を増やして有給取得率の向上を促し、働きやすい環境づくりに奮闘中だ。現段階では店舗当たりの売り上げが上がり、人件費増の財源をまかなうことができている」と、パートタイマーの働き方改革の有効性を力説した。

 また、社員採用については「地方の企業から世界に羽ばたいていくというメッセージを内外に発信したり、人事面で研修体制を強化したりするなど、見せ方と打ち出し方に投資している」と、働く側の意識の変化を敏感にとらえて実行に移す必要性を強調した。具体的には、障害者の仕事力の活用とともに、人事制度を改変して(1)4時間からの時短社員制度の導入、(2)契約社員の廃止、(3)育児保育支援制度の充実、(4)強制的な長期休暇制度の促進――などを挙げ、「生存戦略と成長戦略を進め、生涯現役をキーワードに雇用形態の多様化に対応した職場づくり、そして企業になるようにさらに挑戦を続ける」と力を込めた。

 n171120_3.jpg1968年創業の家具・インテリアの製造、卸、販売を手掛ける関家具の関社長=写真右=は「楽しくなければ仕事じゃない」を旗印に、「積極的に販路開拓などに挑戦できる文化を貫いたことで一歩先の事業展開、一歩先の制度改革を実現してきた」と、経験と実績に裏打ちされた信念を披露。「社員は自主的に主体性を持って業務に従事している。やりたい仕事を任す、失敗しても文句は言わないことがモットー」としたうえで、「採用難の時代とは言え、社員の働きぶりが一番のリクルーターとなって『関家具で働きたい』との評判につながっていく」と、社員満足度と入社希望者が連動、関連しているとの認識を示した。

 そして、外向けのアウターブランディングよりも社員が意欲を持って働くことができるインナーブランドの確立が先決――との理念のもと、「ミッション、パッション、ビジョンという高い志を持って会社経営に当たり、お客満足、社員満足、地域社会貢献の精神が大切」と、創業49年連続黒字の秘訣の一端を紹介した。

n171120_4.jpg 経営コンサルティングとして多くの企業支援やM&Aの経験を持つ渋谷氏=写真左=は、経営の負のスパイラルと正のスパイラルを紐解き、「地方創生がなかなか進まないのは、地方企業を改革できるプロフェッショナル人材を招いていないから。そこを打開すべき」と、現在、内閣府が進めている地方創生の人材戦略の視点から切り込んだ。

 プロフェッショナル人材戦略について渋谷氏は「短期間で飛躍的な企業飛躍を図ること。10年でやることを3年、3年でやることを1年でやるという発想。それには相応の投資費用がかかるが、プロ野球で優勝請負人を招くのと同じ」と分かりやすく解説。そのうえで、(1)経営者がプロ人材を社内で孤立させず、全面的に支援する、(2)プロ人材の価値を認め、プロ人材として処遇する、(3)改革を起こすために招いたことを大切に、信頼して任せる――と、真に改革を目指す経営者へ熱いメッセージを送った。

人材サービスの果たす役割の重みと責務を再認識

 n171120_5.jpg第三部は、第一部で基調講演したリクルートワークス研究所長の大久保幸夫氏を進行役に、事例紹介で登壇した3氏と日本人材紹介事業協会の藤井太一副会長(ACR社長)=写真右=をパネラーにディスカッションを展開した。エージェントとしての豊富な経験と見識を持つ藤井氏は事例紹介した3氏の「強い信念と本気度」に注目し、「利益優先から働く人の満足度向上の実践、インナーブランドの構築など決して容易でない部分に踏み込んでいる」と敬意を表し、「私たちエージェントもトップの志と本質を見極めた対応が不可欠だ」と、人材サービスの役割の重みと責務をかみしめた。

 ディスカッションでは「人手不足と働き方改革」について、パネラーがそれぞれの体感と問題意識から目指すべき地方創生や高齢者雇用のあり方などについても活発な議論を展開。その流れの中で、今後の人材サービスへの期待や要望も多面的な角度から挙がった。進行役の大久保氏は「人材ビジネスは大きな転換期を迎えている。国際的にはシステム会社がつくった人材会社と労務系がつくった人材会社がバトルしている状況。最終的には両方の側面が必要なのだと思うが、いずれにしても今後は雇用創出のボリュームよりも質が問われる時代に向かう」と予測。

 その視点を踏まえて、「多くの雇用を創出したというだけでは評価を得られるのが難い時代となり、働きやすくて働き甲斐のある仕事をいかに提供するか、一日3時間しか働けない人の雇用をどれだけつくってあげられるか、高齢者のための雇用をどう生み出しているかなど、どういう雇用のあり方を企業とともに構築していくかが人材サービスに問われ、求められていく」と、変わりゆく方向性と対応のヒントを提示した。

 今回、JHRが福岡市で開催したシンポジウムは、基調講演、地元企業の事例紹介、パネルディスカッションという三部構成で展開され、地方都市や中小企業の視点、そして現場感覚を重視しながら「人手不足と働き方改革」を深掘り。「これからの人材サービスのあり方」をリアルに考える契機となった。

 

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