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2017年12月11日

実質賃金、10カ月ぶりプラスというが

行き届かない「官製春闘」の果実

 厚生労働省が8日発表した10月の毎月勤労統計調査(速報、従業員5人以上)によると、1人あたりの名目賃金である現金給与総額は26万8392円(前年同月比0.6%増)となり、3カ月連続のプラス。物価変動の影響を除いた実質賃金も同0.2%増となったが、実質賃金がプラスになったのは実に10カ月ぶり。伸び悩んでいた賃金の上昇に弾みがつくかどうか、注目される。(報道局)

 現金給与総額の内訳は、基本給にあたる所定内給与が24万2365円(同0.7%増)で、残業代にあたる所定外給与が1万9765円(同0.2%増)。所定内給与は春闘の賃上げ効果で4月からプラスが続いているが、「働き方改革」による残業削減などによって所定外給与は昨年後半からマイナス続きだった。しかし、人手不足を背景に今夏からはプラスに転じている。

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今年の年末商戦は……

 問題は、名目賃金の伸び率から消費者物価の伸び率を引いた実質賃金の推移。年間ベースでは12年から4年連続でマイナスだったが、政府が経団連などを通じて企業側に賃上げを迫る「官製春闘」の効果が出て、昨年の16年は5年ぶりに前年比0.7%増とプラスに転換した。しかし、今年に入ると官製春闘も“息切れ”気味で、名目賃金はプラスで推移してきたが、実質賃金の伸びは物価上昇に追いつかず、0.1~0.3%のマイナスやゼロ%という“水面飛行”が続いていた。10月にようやく水面に頭が出てきた感があるが、今後、そのまま体ごと浮上するか、再び水面下に沈むか、予断を許さない。

 総務省が発表している今年の消費者物価指数をみると、季節変動の激しい生鮮品を除く総合指数の伸びが1月の0.1%から月を追うごとに少しずつ上昇幅を広げ、8、9月は0.7%、10月は0.8%の上昇となった。原油価格の回復に伴うガソリン価格などの上昇が主要因だが、政府・日銀が目標にしてきた「2%」には遠く及ばない上昇幅だ。

 結局、賃金上昇も物価上昇も政府見通しを大きく下回る弱い動きに終始しており、10月の実質賃金の0.2%上昇も、後日発表される確定値ではマイナスとなる可能性も否定できないレベル。政府の描く「賃上げ→消費拡大→企業収益拡大→賃上げ」の好循環が視野に入ったとは言い難い状況だ。

 来年の春闘も官製春闘となるのは確実で、政府や経団連は「3%程度」の賃上げを企業に要請し、連合は定期昇給も含めて「4%程度」の実現を目指す構えだ。再来年の19年10月から、かねてより約束してきた「消費税10%」に備えて、来年は個人消費の本格底上げを図っておきたい政府や経済界だが、このままでは力不足のまま推移する可能性が高い。

現実味増す「内部留保課税」論

 また、建設、サービス、介護分野などを頂点に、多くの企業で深刻化している人手不足も、生産性の向上が足踏みしている企業が多いことから、人手不足が賃金増に直結しにくい構造になっている。財務省によると、16年度の企業の内部留保は406兆円の過去最高を記録したが、ここまで積み上がったのは生産性の向上に努めた結果というより、株価上昇や海外経済の好調などが主要因だ。

 多くの企業が、貯め込んだ資金を設備投資にも社員の賃金アップにも使うわけではなく、ひたすら「万一のため」「急なM&A資金に備えるため」といった理由を挙げ、動かす気配はない。政界の一部から出ている「内部留保課税」論が、次第に現実味を帯びて来ている。
 

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