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2018年3月12日

19年卒の新卒採用活動解禁

人口減、IT化を色濃く反映

 2019年卒の大学生らを対象にした企業の採用活動が3月1日から始まった。空前の人手不足を背景に、今年は昨年以上に学生側の売り手市場になっており、企業間の争奪戦が過熱しそうだ。経団連が示した採用指針の形骸化も一段と進むとみられ、新卒一括採用方式は大きな曲がり角に来ている。(報道局)

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企業単独の説明会も活発

 3月1日を皮切りに、東京・有明の東京ビッグサイトなど、全国主要都市で大手就職情報会社主催の企業の合同説明会が開かれており、会場は多くの男女学生であふれ返っている。企業単独の会社説明会も活発に開かれ、大学構内での説明会や企業のメンターによる大学訪問など、あの手この手のPR合戦を繰り広げている。

 しかし、多くの企業が新人の採用に苦労している。リクルートワークス研究所の調査では、今春卒業する学生1人に対する企業の求人倍率は1.78倍。6年連続で上昇しており、今回はそれをも上回る可能性が高い。とりわけ、人手不足対策として脚光を浴びているAI(人工知能)やRPA(ホワイトカラーの間接業務を自動化するソフト)の導入を意識した人材の需要が高く、IT企業だけでなく、生産性の向上を目指す一般企業の“引き合い”も増えている。

 学生側も将来性や給与水準の高さを意識しており、ディスコが1月に発表した志望業種のトップに「情報・インターネットサービス」が初めて登場し、長年トップを維持してきた「銀行」を抑えた。「電子・電機」「情報処理・ソフトウエア・ゲームソフト」などのIT関連業界も軒並み順位を上げてベスト10入りしており、業界の雇用吸収力の変化を反映する結果となっている。

 問題は、多くのIT企業、人材ビジネス企業、外資系企業、中小企業などには経団連の非加盟企業が多く、経団連の採用指針に縛られないため、通年採用や早期内定が自由で、人材獲得に有利になっていること。すでに、リクルートキャリア調査では内定率が4.5%(2月1日時点)、ディスコ調査でも8.0%(3月1日時点)となっており、いずれも前年のペースを上回っている。6月の採用解禁までに事実上の内定を出す企業が続出する可能性が高く、その意味では短期決戦の様相を呈している。

is180312_4.png 経団連の指針は、3月に企業説明会が解禁され、6月から面接などの採用選考を行い、10月に内定を出すもの。3年連続で同じ日程となったことから、企業側も学生側もある程度の落ち着きを見せている。しかし、昨年から企業のインターンシップを前年までの5日間から1日間に短縮したことから、学生の参加が大幅に増え、企業側も優秀な学生には目星を付けているといわれる。

 このため、内定率の前倒し傾向にも、加盟企業の“フライング”がかなり含まれているのではないかという、指針を守っている企業側の不満が年ごとに高まっているのが実状だ。ディスコの2月調査では「採用活動が厳しくなる」とみている企業の割合は88.5%に達しており=グラフ、この焦りからフライング、オワハラ(就活を終えるよう学生に強制すること)、海外研修などの囲い込みといった問題行動に走る企業も出てくるとみられる。

いよいよ曲がり角「一括採用方式」

 経団連の採用指針もインターンシップの短縮化も、「就活期間が長くなり、学生の勉強に支障が生じている」という大学側などの批判に対応した措置だが、狙い通りの効果を上げているかどうかは疑問。学生からは「採用活動が実質的に前倒しになっただけ」との声も少なくないことから、経団連が指針の見直しを再び迫られる可能性もでている。

 経団連が新卒一括採用方式にこだわるのは、企業にとって採用コストが少なくて済み、正社員向けの人材獲得に便利なためだ。背景には、「真っ白な新人」を採用し、長時間掛けて会社に合った戦力に育て上げる終身雇用の慣行が、人口が増えている時代はそれなりに有効に働いてきた実績がある。

 しかし、生産年齢人口の大幅減少によって、労働力の需給バランスは大きく変化。加えて、現代は市場の変化のスピードが速く、大規模なリストラ(事業の再構築)を迫られる企業も増えていることもあり、終身雇用のメリットは薄れる一方で、それが企業にも学生にも色濃く反映する就活戦線となっている。
 

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