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2019年1月 9日

(寄稿)関西外国語大学外国語学部教授 小嶌典明さん

労働法と法形式――最近の法改正にみる3つの問題ケース・2

1 労働者派遣法――いまだに残る関連条文に見出しのない労働契約の申込みみなし規定

iskojima.jpg やはりスルーしたか。それが、2018年4月6日に「働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律案」が国会に提出されたときの正直な感想であった。労働者派遣法(労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律)の一部改正について定めた法律案の5条に、労働者派遣法40条の6を改正する旨の規定が含まれていなかったからである。
 その結果、労働者派遣法には、その前後に位置する規定を含め、次のように定める規定がそのまま残ることになった。

(派遣先に雇用される労働者の募集に係る事項の周知)
第40条の5 派遣先は、当該派遣先の同一の事業所その他派遣就業の場所において派遣元事業主から1年以上の期間継続して同一の派遣労働者に係る労働者派遣の役務の提供を受けている場合において、当該事業所その他派遣就業の場所において労働に従事する通常の労働者の募集を行うときは、当該募集に係る事業所その他派遣就業の場所に掲示することその他の措置を講ずることにより、その者が従事すべき業務の内容、賃金、労働時間その他の当該募集に係る事項を当該派遣労働者に周知しなければならない。
2 略
第40条の6 労働者派遣の役務の提供を受ける者(国(略)及び地方公共団体(略)の機関を除く。以下この条において同じ。)が次の各号のいずれかに該当する行為を行った場合には、その時点において、当該労働者派遣の役務の提供を受ける者から当該労働者派遣に係る派遣労働者に対し、その時点における当該派遣労働者に係る労働条件と同一の労働条件を内容とする労働契約の申込みをしたものとみなす。ただし、労働者派遣の役務の提供を受ける者が、その行った行為が次の各号のいずれかの行為に該当することを知らず、かつ、知らなかったことにつき過失がなかったときは、この限りでない。
一~五 略(違法派遣や偽装請負に該当する行為を定めた規定)
2~4 略
第40条の7 略(国及び地方公共団体を対象とした40条の6の類似規定)
第40条の8 略(40条の6第1項の適用に関する厚生労働大臣の助言・指導・勧告等について定めた規定)

 このような場合、40条の5の前に付された見出し(派遣先に雇用される労働者の募集に係る事項の周知)が、40条の8までの規定の共通見出しとなる(なお、40条の9には、(離職した労働者についての労働者派遣の役務の提供の受入れの禁止)との見出しが付されている)。しかし、40条の6以下の3条は、本来、これらの規定に共通した(労働契約の申込みみなし等)のような見出しを付すべき規定であり、このままでは、見出しと条文の内容とが一致しないものになってしまう。

 40条の6以下の3条は、2012年の法改正によって設けられた規定であり、当時は、これらの規定の施行日となる15年10月1日以降も、40条の4および40条の5を含め、そのすべてが40条の3の前に付された(派遣労働者の雇用)を共通見出しとすることが想定されていた。

 しかるに、2015年の法改正により、40条の4および40条の5は、それぞれ(特定有期雇用派遣労働者の雇用)および(派遣先に雇用される労働者の募集に係る事項の周知)を見出しとする規定と差し替えられ(ちなみに、40条の3も、40条の2の前に付された(労働者派遣の役務の提供を受ける期間)を共通見出しとする規定と入れ替わった)、こうした前提がもはや成り立たなくなった。

 にもかかわらず、40条の6の前に共通見出しを置くことをうっかり失念する。いささか説明が長くなったものの、15年改正には、そんなミスがあったのである(注5)
 なるほど、「第40条の6の前に見出しとして『(労働契約の申込みみなし等)』を付す」といった法改正(注6)は、過去のミスを認めることにつながり、できれば避けたいという気持ちはわかる。

 だが、問題のある法律は、速やかに改めるに越したことはない。40条の6以下の3条については、ついでにその内容も見直してはどうか。そうした法律の見直しのきっかけになるのであれば、ミスにも効用はあったということになろう。

 

注5:このような立法ミスの存在は、法改正当時からわかっていた。拙著『労働法改革は現場に学べ!』(労働新聞社、2015年)163~164頁、同『メモワール労働者派遣法』(アドバンスニュース出版、2016年)212~213頁を参照。
注6:なお、40条の5の見出しも、その性格が規定上は変わることを考えれば、字句にまったく変更がなくとも、現行の見出しを削除し、新たに同一の見出しを付すことが、厳密には必要になろう。この点については、「働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律」が、労働基準法の一部改正について定めた1条において、41条の見出しが新設された41条の2との共通見出しとなることを受け、次のような規定を置いたことが参考になる。
第41条の見出しを削り、同条の前に見出しとして「(労働時間等に関する規定の適用除外)」を付し、第4章中同条の次に次の1条(注:41条の2)を加える。

 

(つづく)
 

小嶌典明氏(こじま・のりあき)1952年大阪市生まれ。関西外国語大学外国語学部教授。大阪大学名誉教授。同博士(法学)。労働法専攻。小渕内閣から第一次安倍内閣まで、規制改革委員会の参与等として雇用・労働法制の改革に従事するかたわら、国立大学の法人化(2004年)の前後を通じて計8年間、就業規則の作成・変更等、人事労務の現場で実務に携わる。
 最近の主な著作に、『職場の法律は小説より奇なり』(講談社)のほか、『労働市場改革のミッション』(東洋経済新報社)、『国立大学法人と労働法』(ジアース教育新社)、『労働法の「常識」は現場の「非常識」――程良い規制を求めて』(中央経済社)、『労働法改革は現場に学べ!――これからの雇用・労働法制』(労働新聞社)、『法人職員・公務員のための労働法72話』(ジアース教育新社)、『法人職員・公務員のための労働法 判例編』(同前)、『公務員法と労働法の交錯』(共編著、同前)、『労働法とその周辺――神は細部に宿り給ふ』(アドバンスニュース出版)、『メモワール労働者派遣法――歴史を知れば、今がわかる』(同前)がある。月2回刊の『文部科学教育通信』に「現場からみた労働法」を連載中。近刊『現場からみた労働法――働き方改革をどう考えるか』(ジアース教育新社)第1部には、その既刊分を収録している。

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