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2019年2月28日

(寄稿)法政大学キャリアデザイン学部准教授 松浦民恵さん

父親の家族との夕食回数-4(終) 家族との夕食回数の規定要因

matsuura.jpg 本連載では、さまざまな面から生活改革が期待される未就学児の父親に焦点を当て、その生活のメルクマールとして家族との夕食回数に注目している。連載の最終回に当たる4回目では、夕食回数を被説明変数とする重回帰分析により、夕食回数の規定要因について検討したい。
 分析に使用するデータは電機連合が2017年5~6月にかけて組合員1万86名および管理職605名を対象として実施した「『ライフキャリア』に関するアンケート」である。

1 重回帰分析で明らかにしたいこと~仕事と仕事以外の「けじめ」意識は夕食回数に影響するか

 前述のとおり、父親が未就学児の夕食時間に間に合うように帰宅するためには、19時前の退社が分岐点になる。一方、「19時~20時前」(27.8%)、「20時~21時前」(26.5%)があわせて過半数を占める現状(連載2回目の表2を参照されたい)を踏まえると、にわかに毎日19時前の退社を目指すのは難しいかもしれない。

 しかしながら、せめて週1回だけでも平日19時前に退社できれば、月15回程度の家族との夕食回数を確保できる可能性が高まる。たとえば、平日の毎日20時前に退社するのではなく、どこか1日残業を長めにして21時前退社とし、そのかわり他の1日を19時前退社とするというようなメリハリある働き方ができれば、トータルの労働時間を変更しなくても、家族と夕食を平日1回程度共にすることは可能になる。週1回程度の19時前退社であれば、本人の意識を変えるだけでも、ある程度実現に近づけるのではないだろうか。

 そこで、家族との月当たり夕食回数がどのような要因によって決定されているかをみるために、家族との月当たり夕食回数を被説明変数とする重回帰分析を行う。つまり、他の要因(説明変数)による影響を排除しても、仕事の時間と仕事以外の時間に対する本人の「けじめ」意識が、有効な規定要因たり得るかどうかをみてみたい。

 「けじめ」意識については、仕事をするときと仕事をしないときの「けじめ」がうまくつけられていることについて、「そう思う」「どちらかといえばそう思う」を「時間の『けじめ』ありダミー」、「どちらかといえばそう思わない」「そう思わない」を「時間の『けじめ』なしダミー」として投入する(「どちらともいえない」が基準)。

 これ以外の説明変数として、昨年度の年休取得率、普段の1ヵ月の時間外労働時間、業種、企業規模、現在の職種、役職、勤務形態、年齢、最終学歴、配偶者の就業状態、居住地を投入する。各変数の記述統計量は表1に示した。

表1 使用する変数の記述統計量

2 重回帰分析の結果~「けじめ」意識は夕食回数を増加させる

 表2は重回帰分析の結果を簡易化して示したものである。標準化係数の±は、家族との月当たり夕食回数に対して、各説明変数が+の影響を及ぼしているか、-の影響を及ぼしているかを表す。有意確率は、それぞれの影響について統計的に意味がある程度を表し、***は最も意味があり、逆に*がない場合は意味がないと解釈される。

 時間の「けじめ」ありダミーは、家族との夕食回数に対して5%水準でプラスに有意となっている。一方、時間の「けじめ」なしダミーは有意ではない。意識的に「けじめ」をつけられている者は家族との夕食回数が多くなるが、「けじめ」をつけられていない者と「どちらともいえない」と回答した者の夕食回数には大差がないと解釈できよう。つまり、「けじめ」をつけられていると本人が意識することが重要となる。

 これ以外に有意になっている説明変数としては、昨年度の年休取得率(1%水準でプラスに有意)、普段の1ヵ月の時間外労働時間(1%水準でマイナスに有意)、現在の職種の営業職ダミー(1%水準でマイナスに有意)・SE職ダミー(5%水準でマイナスに有意)・研究・開発・設計職ダミー(10%水準でマイナスに有意)、役職の監督・係長クラス相当ダミー(1%水準でマイナスに有意)、課長クラス相当以上ダミー(1%水準でマイナスに有意)、勤務形態の交替・変則勤務ダミー(5%水準でマイナスに有意)、居住地の周辺地域・その他市町村ダミー(1%水準でプラスに有意)があげられる。逆に、業種、企業規模、年齢、配偶者の就業状態については、いずれも有意になっていない。

 注目すべき点は、労働時間や年休取得率等を考慮してもなお、時間に対する本人の「けじめ」意識がプラスに有意となっていることである。つまり、本人の意識改革をもって、少なくとも平日1回程度の19時前退社、さらには月15回程度の家族との夕食を実現に近づけられる可能性は高い。

 昨今の働き方改革は、一律的な退出時間の設定等企業主導の取り組みが目立つが、働く側本人の意識改革も非常に重要である。分析結果からは、本人の「けじめ」意識が夕食回数の増加という一種の生活改革につながることが示唆されている。

表2 重回帰分析の結果

 

1:本連載は松浦民恵(2018)を元に、一部加筆・変更して執筆したものである。執筆に当たっては、電機連合に設置された「ライフキャリア研究会」(主査:佐藤博樹中央大学大学院教授)の皆様から有益なアドバイスを頂いた。また、「『ライフキャリア』に関するアンケート」の分析においては、調査の実施主体である電機連合、調査の集計・分析を委託された労働調査協議会からご支援頂いた。ここに記して御礼申し上げたい。もちろん、本章における主張は筆者の見解であり、誤りがあればその責はすべて筆者に帰する。
2:電機連合傘下の各企業別組合を経由して、調査票の配布・回収が行われた。有効回答は組合員8399名(有効回答率83.3%)、管理職547名(同90.4%)の計8946名である。
3:ダミー変数は、「ある」「ない」等の2つに1つとなる状況を、「1」か「0」に数値化したもの。

 

(おわり)

 

松浦 民恵氏(まつうら・たみえ) 1966年、大阪府生まれ。89年に神戸大学法学部卒業、日本生命保険入社。95年にニッセイ基礎研究所。2008年から東京大学社会科学研究所特任研究員、10年に学習院大学大学院博士後期課程単位取得退学、同年からニッセイ基礎研究所主任研究員。11年に博士(経営学)。17年4月から法政大学キャリアデザイン学部准教授。専門は人的資源管理論、労働政策。厚生労働省の労働政策審議会の部会や研究会などで委員を務める。著書、論文、講演など多数。 

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