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2022年9月27日

【ブック&コラム】『転身力』

"道草"を楽しむ中高年キャリア論

c2208_2.jpg著者・楠木 新
中央公論新社、定価924円(税込)


 中高年になってからキャリアチェンジを図った人たちへのインタビューを重ねてきた著者が、多くの蓄積事例に加えて自身の半生も振り返りながら「転身」を多角的に考察している。90歳を過ぎても現役の俳優、多分野でマルチに活動するアーチスト、アイドル引退後に学び直し別の道を歩んだ末に音楽活動に戻ってきた人など、パターンは様々あると分析。

 現役の会社員には「新卒入社した会社で長く満足して働ける可能性は急激に小さくなっている」と警告し、中高年期の"もう1度人生が始まるタイミング"にスポットを当てる。ただ、カードをひっくり返すような突然の「変身」ではうまくいかないとも述べ、今までやってきたことを踏まえながらも軽々に結論を出さず、時に宙ぶらりんの状態に向き合いながら「待つ」時間も大切だと奥行きのあるアドバイスを綴っている。

 若い頃にやり残したり諦めたりした世界は、実は貯金でもあると独特の解釈を示し、道草を楽しむ余裕に注目するなど、キャリア理論に縛られない随筆風の論考が何とも味わい深い。

(久島豊樹/HRM Magazine より)

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