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2023年5月18日

小岩広宣社労士の「人材サービスと労務の視点」175・派遣事業報告書と労使協定

Q 派遣事業報告書には労使協定を添付することが求められますが、留意点を教えてください。

 派遣労働者の待遇決定方式のうち労使協定方式を適用している場合は、毎年6月30日までに「労働者派遣事業報告書」(様式第11号)を報告しなければなりませんが、労使協定を添付することが求められます。この際は、以下のような点に留意する必要があります。

・6月1日の時点で有効なすべての労使協定を添付する
・労使協定で定めるべき内容を就業規則に委任している場合は、その就業規則の該当箇所も併せて添付する
・労使協定の有効期間中に一般賃金が変更された場合などは、「有効期間中の賃金に関する確認書」を添付する

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 許可を取得してまもなく労働者派遣の実績がなかったり、結果として協定対象となる派遣労働者がいなくても、6月1日の時点で労使協定が締結されている場合には、必ず労使協定を添付する必要があります。実績の有無や対象者の有無はあくまで結果にすぎないため、協定を締結して労使協定方式を適用した段階で、報告書に記載する報告事項にしたがって協定を添付することが求められます。

 厚生労働省の労使協定イメージなどにしたがって労使協定を構成・作成する場合が多いですが、この場合は賃金の決定にあたっての評価の具体的な仕組みなどは就業規則(賃金規程)に準拠することになるため、労使協定で具体的な内容までを網羅的に記載するケースは少ないため、就業規則の該当箇所を報告書に添付しなければなりません。

 また、労使協定の有効期間中に一般賃金の額が変更されたり、労使協定の有効期間が1年を超えるなどして同様の事情が生じる場合には、以下のような確認書を添付することになります。労使協定の有効期間について業務取扱要領では2年以内とすることが望ましいとされていますが、このような確認書を作成・提出する必要があるため、実務的には1年に設定されるのが一般的です。

                                令和 年 月 日

       協定対象派遣労働者の賃金の額に関する確認書

●●人材サービス株式会社は、令和○年○月○日付けで●●人材サービス労 働組合(過半数代表者○○)と締結した「労働者派遣法第30条の4第1項の規 定に基づく労使協定」(労使協定の有効期間:令和○年○月○日から令和○年○ 月○日)について、別紙のとおり、当該協定対象派遣労働者の賃金の額が、令和4年8月26日職発0826第1号「令和5年度の「労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律第30 条の4第1項第2号イに定める「同種の業務に従事する一般の労働者の平均的な賃金の額」」等について」(以下「通知」という)の第2に定める「一般賃金」の額と同等以上であることを確認しました。

                              事業主名:


 昨今の行政調査などでは労使協定方式の運用実態について確認されるケースが多いですが、とりわけ労使協定に具体的な一般賃金や通勤手当、退職金の算出方法の記載がなかったり、「別表」と記載があるのみで具体的な別表が添付されていなかったり、派遣労働者の賃金の改善をはかるための公正な評価の制度がない場合などは根本的な問題となりますので、今年の事業報告書の提出にあたって必要な場合はあらためて基本事項の確認をしたいものです。

(小岩 広宣/社会保険労務士法人ナデック 代表社員)

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