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2016年1月19日

ベトナムの理系新卒を日本企業へ、「日越就業能力開発プログラム」開講 ―(中)

トゥン准教授「初の総合的取り組みに磨きかけ、実績つくる」

 日本の長岡科学技術大学・大学院で学んだ経験も持つダン・ダン・トゥン准教授=写真下。日本企業へ優秀な学生を送り出すチャンスを広げる「新たなプロジェクトの始動」に対し、初年度の意気込みや課題、最近のベトナムの学生を取り巻く環境と意識などを聞いた。(2015年12月8日・ホーチミン工科大)

――日本をはじめとする世界各国では、東南アジア諸国の理系・工学部の優秀な人材に対する関心が年々高まっています。工科大の特色と目標を聞かせてください。

is160119_1.jpgトゥン准教授 ホーチミン市にある首相直轄の国家大学であり、その中の工学部系大学です。来年には創立60周年を迎え、歴史のある南部で最高位に位置付けられています。海外の大学、機関や組織などとの連携を拡大していく方針で、さまざまな活動を通してアジア地域においてグローバルで理想的な研究環境と先進的な大学を目指している状況です。

――学生たちの日本企業へ就職する意識や思考は、近年どのような傾向にあると受け止めておられますか。

トゥン准教授 トップクラスの理系人材が学びに磨きをかけているので、大きなニーズの波が来る前から、工科大は日本企業の幹部社員を輩出しています。特に、日本語を学ぶ意識の高い学生は、ベトナムにある日系企業、あるいは日本の企業本社への就職を希望し、プロフェッショナルで高い対価を得たいと考えています。この傾向に変化はありません。

 より良くなっているのは、近年の学生は大学の外部連携などをきっかけに従来にも増して経験や出会いによって体得する多様性を身に着けてきています。やはり、学生時代から培った多様性を日本企業で活かしてもらえれば、本人たちにも日本企業にとってもアドバンテージが大きいと思います。

――「日越就業能力開発プログラム」が開講しました。このプログラムの実質的なリーダーであるトゥン准教授は、開講にどのような期待と成果を寄せていますか。

トゥン准教授 先ほどの学生たちの意識の分析にもなるのですが、最近はベトナムにある日系企業で働くことと、日本の本社や支店の第一線で活躍することの「レベルの違い」にも気づいてきています。もちろん、前者も相応に高いスキルが必要です。しかし、後者を目指すとなると、まだまだ専門知識や日本語レベル、両国の文化をより把握するステージがあるということです。

 この部分に気づき、意欲と向上心を持った学生たちが、まさに今回開講した新たなプログラムの中で成長していくでしょう。だからこそ、「提携した。スタートした」で達成したのではなく、教師陣であり、プログラム運営者の3者(大学・タンスイベトナム・ジャパンクリエイト)がさらにカリキュラムの精度を高めるために学生たちとともに真剣に取り組み続けていこうという覚悟です。そして、目に見える成果と実績を出していく熱意が高まっています。

――日本の人材サービス企業との連携で、優秀な学生の就職に向けた「新たな仕組み」が誕生しました。産学官連携はこれまでも力を入れてこられたと思いますが、日本の人材サービス企業との「実践的・実務的」なプログラムの開講は、どのような意義を持ちますか。

is160119_2.jpgトゥン准教授 単に日本語講座を新たに開設した、という位置づけではありません。一歩踏み込んだ狙いがあります。つまり、これまでも「日本に人材を送る」という観点ではホーチミン市内でもいろいろな機関が活動していました。今回、初めて国立大学で屈指のわが校が、日本の民間人材サービス会社と総合的・立体的な取り組みに乗り出す=写真=のは、例のないことです。

 前例がなく、初の挑戦だけに、「これまでの類似するように見えるカリキュラムや仕組みとは何が違うのか」が問われます。今後はさらに専門講座を設けるなどのレベルアップを常に進めますが、それには3者の力の結集が不可欠です。そして、早期の実績づくりとその積み上げであり、学生たちの意見や提案もどんどん組み込んで「プログラム」を育てていきたいと思います。

――最後に、あらためて今回開講したプログラムの課題と他とは異なるポイントを教えてください。

トゥン准教授 レベルの高い日本語教師の確保と維持が絶対的に必要です。そして、そこに秀でた専門性とビジネスマナーや日本文化を卒業前に学んでいくので、途中、自分の学習能力がどこまで達しているか、どのレベルにいるのか確かめることが大切です。

 そこで、教師側が一方的に教えて満足するのではなく、定期的に小テストを設けて自分自身を見つめさせる機会を与え、教師側も足りない部分を補強するカリキュラムの向上にアンテナを張り続けていきます。学生たちの自主的な気づきと努力の方向性を全面的にバックアップしていく仕組みが「日越就業能力開発プログラム」の最大のポイントです。 (つづく)
 

Dr. DANG DANG TUNG(ダン・ダン・トゥン氏)1977年生まれ。1996年国費留学生として来日。2002年長岡科学技術大学卒。07年同大学大学院博士課程修了、同年ホーチミン工科大学講師就任。08年より、長岡科学技術大学客員准教授、ホーチミン工科大学准教授を併任し現在に至る。さらに2015年から「日越就業能力開発プログラム」のプログラム長を務める。

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