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2015年9月11日

<緊急寄稿>大阪大学大学院法学研究科教授 小嶌 典明さん

問題の多い附帯決議――派遣法改正案の成立に寄せて(1)

はじめに――合計50項目、1万2千字を超える異例の附帯決議

 is1509.jpg 2015年9月11日、難産の末、派遣法改正案(正確には「労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律等の一部を改正する法律案」)がようやく成立をみた(同年9月30日施行)。法改正が実現したことによって、「労働契約申込みみなし」規定の施行(10月1日)に伴う混乱も、大規模なものにならずに済みそうではある(注)。しかし、改正法案の成立を期すためとはいえ、与党は、想定外ともいうべき大幅な「譲歩」を野党に対して行った。9月8日の参議院厚生労働委員会における附帯決議がそれである。

 法案を委員会で可決するに当たって、附帯決議を行うこと自体は珍しくない。派遣法が12年に改正された際にも、衆議院厚生労働委員会では7項目、参議院厚生労働委員会では8項目の附帯決議が行われている。後者の場合、附帯決議は、字数にして1160字。これを朗読するにも、それほど時間はかからなかったと思われる。

 これに対して、今回の附帯決議は、その桁が違っていた。計39項目、字数にして1万574字。朗読には30分以上の時間を要したと聞く。同時に可決をみた、いわゆる「同一労働・同一賃金法案」 (正確には「労働者の職務に応じた待遇の確保等のための施策の推進に関する法律案」)の附帯決議(11項目、1520字)と合わせると、合計50項目、1万2千字を超える、きわめて異例の附帯決議となった(なお、いずれの附帯決議も、参議院のホームページに掲載されている)。

 確かに、附帯決議に法的拘束力はない。だが、それはあくまでタテマエであって、現実は違う。今回の場合、附帯決議は、法律や省令、指針(大臣告示)の内容について数多くの注文をつけるものとなっており、今後、国会や厚生労働大臣は、その手を事実上大きく縛られることになる。ただ、労働政策審議会(労政審)も、附帯決議が「〇〇すること」と指示し、注文した範囲でしか、法令や大臣告示の改正について議論が行えないとすれば、労政審にとっては自殺行為に等しい。そうした事態を招くことは、附帯決議を行った当の委員会も、よもや望むところではあるまい。

 9月8日の附帯決議では、自公民三党の委員をはじめとして、参議院厚生労働委員会のメンバーの圧倒的多数がこれに賛成したとはいうものの、その内容を正確に理解した上での意思表示(挙手)であったかどうかについては、大いに疑問が残る。「それはおかしい」「事実とは異なる」。仕事のかたわら、ネット中継された案文の読み上げを聞いているだけでも、そう思うところが少なからずあったからである。

 では、附帯決議のどこがどうおかしいのか。また、その内容が事実に反するのか。次回以降、これを具体的に明らかにしていくこととしたい。(つづく)
 

注:拙著『労働法改革は現場に学べ!――これからの雇用・労働法制』(労働新聞社[労新新書004]、2015年)113頁、162頁を参照。
 

小嶌 典明氏(こじま・のりあき)1952年大阪市生まれ。神戸大学法学部卒業。大阪大学大学院法学研究科教授。労働法専攻。小渕内閣から第一次安倍内閣まで、規制改革委員会の参与等として雇用労働法制の改革に従事するかたわら、法人化の前後を通じて計8年間、国立大学における人事労務の現場で実務に携わる。最近の主な著作に『職場の法律は小説より奇なり』(講談社)、『労働市場改革のミッション』(東洋経済新報社)、『国立大学法人と労働法』(ジアース教育新社)、『労働法の「常識」は現場の「非常識」――程良い規制を求めて』(中央経済社)、『労働法改革は現場に学べ!――これからの雇用・労働法制』(労働新聞社)、『法人職員・公務員のための労働法72話』(ジアース教育新社、近刊)等がある。

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