スペシャルコンテンツ記事一覧へ

2016年4月25日

長時間労働抑制へ厚労省が監視強化

残業「100時間」から「80時間」へ

 政府の一億総活躍国民会議(議長、安倍晋三首相)が打ち出した主要政策の一つに「長時間労働の削減」がある。もう一つの主要政策である「同一労働同一賃金」が企業などの職能給といった労働慣行と絡んで、実現までに相応の時間が掛かるのに対して、長時間労働の削減はまず違法残業の撲滅という行政措置で比較的可能であり、これまでの政策の延長線上にもあることから、厚生労働省は素早い動きをみせている。(報道局)

 長時間労働の是正については、政府が残業割増賃金の引き上げなどを盛り込んだ労働基準法改正案を国会に提出しているが、成立はもちろん審議入りのメドが立たないことから、厚労省は法改正以外の規制強化で対応。その中心が、月100時間を超える残業が行われている事業所に対する労働基準監督署の指導基準を、同80時間超に拡大したことにある。

 立ち入りの“基準”を80時間に引き下げたのは、残業が80時間を超えると体調や精神面に影響の出る確率が急増する過重労働のデッドラインとなっているため。これにより、従来の2倍近い約2万事業所が対象になるとみられる。

is160425.jpg

厚労省も長時間労働の削減に努めてきたが…

 同時に、これまで東京と大阪にのみ配置していた「過重労働特別監督監理官」(かとく)を全都道府県の労働局に配置して目を光らせる。中でも、トラック業界やIT業界では違法残業が多いことで知られることから、各業界団体と連携して改善の道を探る方針だ。「かとく」は捜査権に準じた強い権限を持ち、悪質事例の摘発などを目指す。

 厚労省によると、昨年4~12月に100時間残業の事業所8530カ所を調査したところ、労基法の違反が認められたのは76.2%にあたる6501事業所にのぼった。主な違反は違法残業が4790事業所、賃金の不払いが813事業所あり、順法意識の著しく希薄な企業が多いことを裏付けている。

 労働力調査などからの推計では、昨年の全国の常勤労働者約5000万人のうち、80時間以上の残業をした人は約300万人、100時間以上は約110万人。また、仕事を家に持ち帰るサービス残業をした人も、2014年度で20万人を超えて過去最高になったとみられるなど、長時間労働が改善する兆しはない。

 厚労省は14年に「長時間労働削減推進本部」を省内に設け、過重労働撲滅キャンペーンを展開して過労死防止などに努めているが、違法残業は容易に減らないのが実情だ。その背景に、労基法で規定している残業規定、中でも「36(さぶろく)協定」が実質的にザル法となっている実態がある。

「36協定」の見直しには労使に戸惑い

 労基法では労働時間を「1日8時間、週40時間」を上限に定めている。しかし、同法36条では労使が協定を結べば残業が可能になり、厚労省は月45時間を上限に設定しているが、罰則規定はない。さらに労使が緊急時向けに「特別条項」を結べば、実質的に規制の上限はなくなり、それが日常化していることが長時間労働の背景の一つになっている。

 政府が長時間労働の撲滅を訴えても効果がなかったのは、こうした法の欠陥による側面も大きかった。それを意識して、同国民会議では安倍首相自らが「36協定における時間外労働規制の在り方を再検討する」と発言し、波紋を広げた。

 しかし、18日に開かれた労働政策審議会の労働条件分科会では、労使ともに違法残業の取り締まりなどには賛成したものの、36協定の見直しになると、「(労使で決めてきた協定に)政府が介入するのは違和感がある」との反発も強かった。

 36協定には労使ともにそれぞれが必要とする理由があり、「労基法全体を見直す中で議論すべきもの」というわけだ。法改正による一律の規制強化では、対応できない業界も出てくる可能性があり、どういう形で見直しに入るのか、今のところ、明確な道筋は見えていない。



【関連記事】
同一労働同一賃金や配偶者手当など報告、政府主導の"介入"に反発も
労政審労働条件分科会が再開(4月18日)

PAGETOP