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2013年5月 4日

【この1冊】『8・15と3・11―戦後史の死角』

福島原発事故に至る戦後史を根底からとらえ直す

c130504.jpg著者・笠井 潔
NHK出版新書、定価780円+税

 

 著者は戦後史の真っただ中を生きてきた団塊の世代の小説家であり、文芸評論家である。

 戦後史全体をとらえ直す中で、8・15の敗戦と3・11の福島第1原発事故との間には、不決断と問題の先送り、無責任と自己保身、眼前の現実への無批判な追随といった多くの共通点があり、原発事故は敗戦の教訓に十分学ばず、「平和と繁栄」を懸命に追い求めてきた戦後史の必然的帰結だという。

 すなわち、自民党を中心とした指導者達が敗戦を科学技術の敗北、生産力の敗北として総括した戦後日本は、対米従属を前提とする「平和と繁栄」を志向し続けてきたが、日米安保を補完する「潜在的核保有」と日本経済の繁栄のために必須の電力供給という二重の意味で原発を必要としてきた。

 核技術はもともと軍事利用と平和利用に分割できないものであるにもかかわらず、「唯一の被爆国」として核兵器には強い拒絶感を示しつつも、「核の平和利用=原発」については寛容に認めてきた。しかし、「核の平和利用」という名目で原発を稼働させれば、核兵器の材料となるプルトニユムを生産できるわけであり、「潜在的核保有国」として一定の安全保障上の抑止力を持つことも期待できる。従って、核兵器には反対だが、核の平和利用=原発には賛成、という立場はあり得ない、と著者はいう。

 しかし、危険だから反対するという脱原発派も、戦後日本の「平和と繁栄」路線を疑わない点で原発推進勢力と変わらない。たとえ安全でも、原発はその制御・管理に強大な力を必要とすることから、その存在そのものが、自由を制限し剥奪するいわば「社会に埋め込まれた下からの権力装置」として無限に肥大化して行く可能性があり、結果として、人々の自由な生活を抑圧する存在となるから、反対すべきなのだというのが著者の立場である。

 つまり、原発は個人の自律的活動や自己決定力をいやおうなく崩してしまうから反対すべきだというのだ。確かに「敗戦後の日本の『平和と繁栄』は、様々な意味で原発に依存してきたため、戦後史全体を見直さない限り、真の脱原発はあり得ない」という筆者の立場はきわめて興味深い。原発を考えるための必読書であろう。 (酒)

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