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2022年1月20日

小岩広宣社労士の「人材サービスと労務の視点」106・3以上の事業所に勤務するマルチ高年齢被保険者

Q 3か所以上の事業所に勤務する労働者が、マルチジョブホルダー制度で雇用保険に加入する場合の手続きについてお教えください。

koiwa1.png 1月1日からスタートした雇用保険のマルチジョブホルダー制度については、前回のコラムで概要について触れました。複数の事業所に雇用される65歳以上の労働者で、1週間の所定労働時間の合計が20時間以上、2つの事業所のそれぞれの雇用見込みが31日以上の場合に加入することができますが、現在のところあくまで試行的な制度とされていますので、将来的には仕組みが変更されたり、対象範囲などが拡大されたりする可能性もあります。

 マルチジョブホルダー制度は雇用保険制度の例外となっていますので、要件に該当しても該当者本人が申し出ないかぎり被保険者にはなりませんし、そのための手続きは事業所の管轄ではなく労働者の住所・居所の管轄のハローワークに対して行うという点については前回触れました。さらにこの制度が特殊なのは、3か所以上の事業所に雇用されている場合は、3つ以上の事業所での労働時間を合算するわけではなく、あくまで2つの事業所の合算で加入の手続きを行う点です。

 マルチ高年齢被保険者となる要件は、あくまで「2つの事業所」の労働時間を合計して1週間の所定労働時間が20時間以上の場合であり、1つの事業所における1週間の所定労働時間が5時間以上20時間未満のものに限るとされています。したがって、3つの事業所で勤務する場合で考えると、A、B、Cの事業所がそれぞれ5時間の場合はそもそも合計20時間に満たないため要件を満たしませんが、A、B、Cそれぞれ10時間の場合は3事業所の合計ではなく、本人がこのうちの2事業所を選択して加入手続きを行うことになります。

 この場合、2事業所はどの事業所を選択しても差し支えないと思うかもしれませんが、結果として将来の資格喪失の要件や手続き、給付額にも影響が出ることがあるため、注意する必要があります。A、B、Cの事業所に勤務していてA、Bでマルチ高年齢被保険者になった場合、例えばBを離職しても、AとCを合算したら要件を満たす場合であっても、自動的に切り替えられることはなく資格喪失することになります。AやBで所定労働時間が減少したり、5時間未満となったりするような場合も同じです。

 失業時の給付は離職理由によって待期期間や給付制限の扱いが変わりますが、2つの事業所を離職してそれぞれの離職理由が異なる場合は、給付制限がかからない方の扱いになります。給付額については、2つの事業所を離職した場合はそれぞれの賃金を合算して給付基礎日額を算出しますが、1つの事業所のみを離職した場合は離職した事業所の賃金のみで算出するという取り扱いになります。したがって、A、B、Cの3事業所で勤務している場合は、このうちどの2事業所で加入するかによって手続きや給付額などが異なる結果になることがあります。

 マルチジョブホルダー制度は、あくまで雇用保険制度の例外に位置づけられるため、そもそも「生計を維持するに必要な主たる賃金を受ける雇用関係にある会社」で加入という原則をとらず、労働者が加入する2事業所を選択することになります。そのため、手続きも複雑となり離職時の取り扱いも原則とは異なる部分があるため、加入にあたっては十分に制度を理解した上での対応が求められるといえるでしょう。

(小岩 広宣/社会保険労務士法人ナデック 代表社員)

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