コラム記事一覧へ

2023年2月23日

小岩広宣社労士の「人材サービスと労務の視点」163・自己正当化という病

Q いわゆる「Z世代」の従業員への対応に苦慮しています。昭和生まれの人間とは価値観が違い過ぎると感じますが、理解や対応を進める上で参考になる情報などはありますか。

koiwa1.png 最近、「今どきの若者はよく分からない」「Z世代の部下を関わるのが苦手」。このように話す経営者や管理職を多く目にします。「Z世代」とは、1990年半ばから2010年代生まれの世代を指すことが一般的であり、アメリカで1960年から70年に生まれた人を「ジェネレーションX」と呼んでいたことが由来といわれます。生まれながらにしてデジタルネイティブであり、物心ついた頃にはすでに先端的なテクノロジーやデジタル技術に触れていた世代になります。

 ずばりZ世代の人たち全員にあてはまるというわけではありませんが、今の時代に職場で起こりがちな現象を読み解き会社側として対応する上でとても参考になる本として、今年の話題作のひとつである片田珠美著『自己正当化という病』(祥伝社新書)があります。筆者はある同業者に勧められていっきに読了したのですが、中小企業の労務問題に毎日向き合う社労士の目線からも、目から鱗で心から頷かされるページの連続のように感じました。

 片田氏は、「自己正当化に終始し、自分が悪いとは決して思わない人」の典型例として、15の事例を挙げています。「事例1 事件をでっち上げて、部署異動を画策した新入社員A」では、休業加療を要するとする虚偽の診断書をもとに会社と掛け合って希望する部署への異動を迫る新入社員、「事例5 上司に責任転嫁し、逆ギレするE」では、ミスを上司から叱責された社員が上司からパワハラを受けたと騒ぎ立てて、会社に上司の異動を迫る姿が紹介されていますが、いずれも極端な例とはいえ、リアルに現場で起こりがちなパターンだといえるでしょう。

 知らず知らずのうちに自己正当化する人には、①利得、②自己愛、③否認の3つの動機があるといいます。自分にとって得になると思えば、ひたすら正当化する。強い自己愛が、自分の価値観や考えを他人に押しつけ、他人に認めさせようとする。自分の非はいっさい認めず、悪いのは自分ではなく相手や環境だと主張する。この3つの動機が絡み合うことで、自己正当化の論理はしだいにエスカレートしていきます。

 自己正当化をこじらせる要因としては、①強い特権意識、②過去の成功体験、③想像力の欠如、④甘い現状認識があります。これらが垣間見える例として、著者は森元首相や高齢のワンマン経営者、子どもに対して特権意識を抱く親、プーチンロシア大統領、パワハラをでっち上げる無気力社員などのトピックが紹介されています。とりわけ、③想像力の欠如や④甘い現状認識などは、Z世代に見られがちな共通項のひとつだといえるでしょう。

 このようなシリアスな現実に対して、どのような対処をしたらよいのか。「終章 対処法」では、具体的な取り組みの可能性と注意すべき点、少しでも問題点を緩和させるための方策について、著者の考えが完結に整理されています。具体的には、相手が自分を悪いとは思えないタイプの人間だと気づく。こちらからアプローチして本人を変えるのは困難だとあきらめ、適度な距離を置くようにする。自分が悪いと思わない人と「戦う」という選択肢はとらない。必ずしも本人から好かれる必要はないと悟る、といった点について、事例を交えて解説されています。

 現場の管理職の目線からは、この章だけでも読んでおくと、いざというときの対処法のヒントが見いだせたり、最悪の事態を避けるためのリスク管理をはかることができるかもしれません。

(小岩 広宣/社会保険労務士法人ナデック 代表社員)

PAGETOP