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2017年11月 6日

正社員求人倍率も1倍超えだが

突出する介護分野の人手不足

 企業の求人内容が大きく変化している。人件費抑制などを目的に非正規社員を増やして対応してきた流れが限界に達し、正社員の求人がジワジワ上昇、6月に有効求人倍率(季節調整値)が1.01倍と1倍を超え、9月には1.02倍と4カ月連続で1倍を超えている。2004年から統計を取り始めた正社員の求人倍率で1倍を超えたのは今年が初めて。企業の労働力確保は困難さを増している。(報道局)

sc171106_1.png 有効求人倍率は全国のハローワークを経由する求人、求職で、仕事を求めている人1人に対して、何人分の求人があるかを表す厚生労働省の指標。少し長期的にみるとパート、正社員をすべて合わせた求人倍率は、リーマン・ショックをきっかけに不況に突入した2009年当時は0.4倍台で低迷した。10年以降は上昇に転じ、13年11月に1倍の大台を回復した。

 さらに、景気の緩やかな回復が長期にわたって続いたうえ、人口減少に伴う労働力不足が表面化したため、15年後半ごろから人手不足に陥る企業が増え、求人倍率の上昇テンポもにわかに早まり、今年に入ってからは1.5倍台に。第1次石油ショック直後の1974年前半に並ぶ水準になった。

 しかし、求人倍率の上昇は企業の求人が主にパートタイマーらの非正規社員を求めたことが主要因で、正社員の求人は低迷したまま。09年当時の求人倍率は0.2倍台まで落ち込んだ。全体の倍率が1倍を超えた13年11月時点でも正社員に限れば0.60倍に過ぎなかった。定年退職した多くの高齢者が非正規で働き続けている背景もあるが、被雇用者に占める非正規比率は4割近くに達し、雇用不安、低賃金などの社会問題がメディアで指摘されはじめたことから、非正規問題が政府の重要課題になった。

 ところが、人口減少による生産年齢人口(15~64歳)の減少は1990年代後半から始まっていたものの、リーマン・ショック後の景気回復からその影響が本格化し、正社員となる新卒採用では計画通りの採用人数を確保できない企業が続出した。また、14年には団塊の世代がほぼ退職したこともあり、技能・技術分野の人材不足が顕著になった。

 このため、従来は非労働力扱いされていた高齢者や主婦らの就労が盛んになったが、大半がフルタイム勤務の困難な非正規労働で、正社員としての仕事には無理がある。フルタイム勤務の可能なパートらを対象に、勤務地や職種などを限定する「限定正社員」に転換を図る一方、出産・育児や介護で離職する正社員のつなぎ止め策を講じてしのいできたが、それも限界に差しかかっている。

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企業は正社員の確保に必死

 ただ、正社員不足も業種別にみると大きな偏りがある。今年9月の場合、正社員が大半を占める「常用労働者」の求人が多いのは「専門・技術」の2.13倍、「サービス」の2.78倍など。「専門・技術」では35万人前後の求人があるが、その多くは介護福祉士、保健師、情報処理・通信、建築・土木など。「サービス」も約30万人の求人のうち、半数近くを介護職が占めている。これに対して、求職の多い事務職は0.42倍しかなく、求人と求職のミスマッチが目立っている。

 介護分野の人手不足は、高齢化に伴う要介護者の急増で介護側の人的供給が追い付かないのと、介護保険をはじめとする公的支出の抑制の結果、職員給与が低水準にとどまるなど、待遇面で問題が多いことから、離職者も多いという事情が背景にある。全団塊の世代が後期高齢者となる「2025年問題」をピークに、介護人材も大幅増が必要と予想されるだけに、このままでは事態は深刻になる一方だ。

「正社員募集」だけでは集まって来ない

 正社員に対する人気が一時ほど高くなっていないことも要因の一つだ。正社員は給与増と雇用保障という大きなメリットがある半面、過労死に象徴される長時間労働と責任強化も伴うため、敬遠する人も多い。法改正によって、正規と非正規の賃金格差を縮小する同一労働同一賃金を企業に求めていく流れが強まっており、雇用不安が社会を覆った09年当時に比べ、働く側の就労意識はサマ変わりしている。

 企業の求人も「正社員」だけをうたうだけでは、魅力に乏しい時代になったようだ。転職支援のエン・ジャパンが今年4月に発表したサラリーマン調査では、「社員満足の高い会社」の特徴として、「人間関係が良好」「社員の表情が明るい」「社員の成長支援」が上位3位に上がっており、年収や福利厚生は4、5位だった。「働きやすい会社」でないと人材が集まらないことを意味しており、企業にとって多面的な「働き方改革」が最優先課題となっている。

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