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2016年2月15日

「外国人技能実習適正実施法案」の趣旨と要所

不適切な「監理団体」の徹底排除と新機構設立で厳格対応へ

 昨年の通常国会終盤の9月4日に衆院法務委員会で審議入りした、外国人の技能実習制度を抜本的に見直す「外国人技能実習適正実施法案」。国会全体は政府と自民の失策で締りに欠けるが、政策にこだわると、同法案が今国会の中でも重要法案と見て良いだろう。この制度が国際問題として批判を受けている事実を直視すると、一刻も早い総合的な課題解決が求められる。

 これまでの民間機関・国際研修協力機構(JITCO)に代わる「新機構設立」、さらに監理団体(組合・商工会など)と実習実施者・受け入れ企業に対する厳格な対応によって、「現有の半数以上の監理団体が数年以内に存在できなくなるのではないか。認定しても不適切な行いがあれば厳しく(実施権を)はく奪する方針だ」(法務省幹部)という。遅かれ早かれ、年内に成立濃厚な「新法」であり、今後の国会審議が注目される。いい加減な運用を繰り返してきた監理団体や実習実施機関などは、政府が本腰を入れる新法に込めた「強い意思」を受け止め、体質の根本的改善か撤退の検討も念頭に入れるべきだろう。(報道局長兼労政ジャーナリスト・大野博司)

本来は16年3月末までに「新機構設立」なのだが…

is160215.jpg 外国人技能実習生の課題や問題については、長年にわたり日本政府が国際社会から批判や指摘を受けてきた経緯がある。端的に言えば、(1)実習実施機関などによる入管法令や労働関係法令違反が発生しているほか、米国務省をはじめ国内外から技能実習制度に対する批判が絶えない、(2)現状に合わない技能実習内容、母国に戻った際に活用できない古いタイプの実習内容も課題で、対象職種の拡大、実習期間の延長など「制度拡充」の要望も寄せられていた――という2点があった。

 規制強化一辺倒、あるいは緩和一辺倒といった単線的視点ではない、「厳格対応と現場実態に即した抜本的見直し」が背景に横たわっている。ここでは、受け入れ機関別に存在する「企業単独型」と「団体監理型」の2タイプのうち、非営利の監理団体(事業協同組合や商工会など)が技能実習生を受け入れ、傘下の企業などで技能実習を実施する「団体監理型」に主軸を置く。

 昨年の通常国会においては、法務省と厚生労働省の共管である同法案を政府は「予算措置案件」と位置付け、早期成立を念頭にしていた。現行法の改正案ではなく、抜本的見直しの「新法」とした点と、新機構を「成立と同時に公布・施行」としたところに、政府と関係省庁の意気込みが感じられる。

 しかし、昨年の通常国会は、戦後最大の延長幅をとったにもかかわらず、安全保障関連法案と労働者派遣法改正案の大きく2つに、日本年金機構の個人情報流出問題などが相まって、各種常任委員会の審議が遅延。厚労省、法務省ともに「新法」に関連する担当部署を昨年4月から「室から課」に格上げするなど、法案成立後の事務処理の対応に万全を期してきたが、法案は審議入りが精いっぱい。昨年は「肩すかし」に終わった経緯がある。

is150223.jpg ゆえに、今年は夏の参院選(半数改選)を控え、取材を重ねる限りでは「今国会成立確実」とまでは言いきれないが、参院選後の秋の臨時国会も視野に入れると、年内の「新機構設立」の流れは“既定路線”とも言える。当然ながら関係者は対応準備が不可欠だ。新法が成立して直ちに施行されれば、予定よりも施行が遅れている実情から、許可と届け出は出来るだけ簡素に速やかに処理するものの、その後、新機構が実地検査などを含めて積極的に目を光らせ、問題があれば許可や届け出の「取り消し」の措置をとる構えだ。

管理監督体制の強化策と拡充策のポイント

管理監督体制の抜本的強化策においては、
①賃金未払いや長時間労働などの不正事案の発生を踏まえ、関係省庁の連携による全体として一貫した国内の管理運用体制を確立
②送り出し国との政府間取り決めの作成
③監理団体に対する外部役員設置、または外部監査の義務化
④新たな法律に基づく制度管理運用機関の設置
⑤業界所管庁による指導監督の充実を図るとともに、関係機関から成る地域協議会(仮称)の設置

 拡充策としては、
①対象職種の拡大として、

(1)国内外で人材需要が高まることが見込まれる分野・職種のうち、制度趣旨を踏まえ、移転すべき技能として適当なものについて、随時対象職種に追加
(2)介護分野はEPA(経済連携協定)に基づく介護福祉士候補者の受け入れなどとの関係整理や、日本語要件などの質の担保などのサービス業特有の観点を踏まえて検討
(3)全国一律での対応を有する職種のほか、地域ごとの産業特性を踏まえた職種の追加の検討

②実習機関の延長(3年⇒5年)
 監理団体および受け入れ企業が一定の明確な条件を充たし、優良であることが認められる場合、技能レベルの高い実習生に対し、一旦帰国の後、最大2年間の実習を認める

③受け入れ枠の拡大
 
監理団体、受け入れ企業の監理の適正化に向けたインセンティブの一環として、監理団体および受け入れ企業が一定の明確な条件を充たし、優良であることが認められる場合、受け入れ枠数の拡大を認める

 新法のポイントとなる「管理監督体制の強化策」と「制度の拡充策」の現行と変更後の違いについては、下記の【関連記事】の中の「外国人技能実習適正実施法案が衆院本会議で審議入り」を参照いただきたい。
 

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