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2021年11月18日

小岩広宣社労士の「人材サービスと労務の視点」98・休職期間が長期化した労働者への対応

Q メンタルヘルス不調を訴えて休職している労働者がおり、休職期間が長期化しています。今後どのように対応すべきでしょうか。

koiwa1.png メンタルヘルス不調などの傷病によって休業する労働者のための休職制度が多くの会社では制度化されています。私傷病によって出勤ができない場合は有給休暇を取得することが考えられますが、その場合の取得日数には上限があり、残日数が少ない場合や入社して間もない場合は対応できず、それ以降の休業については欠勤扱いとなってしまい、一般的には欠勤が長期化すると解雇事由に該当することから、労働者の福利厚生の観点からみた解雇猶予制度として、休職制度が存在します。休職制度が機能することによって、本来であれば解雇の取り扱いにならざるを得ない労働者の雇用が維持され、会社としても有意な人材が傷病によって流出することなくその回復を待って復職させるチャンスを与えることができます。

 休職期間の長短については会社や職種、勤続年数などによってまちまちですが、就業規則に規定された期間を満了すると労働者は退職扱いとなるのが原則ですから、労働者が回復するのを待って復職の可否を判断することになりますが、この判断は最終的に会社の責任で行うことになります。会社が医学的な専門知識に基づいた判断をすることはできないため、医師の診察による診断書や所見をもとに判断することになりますが、とりわけメンタルヘルス不調の労働者をめぐっては、医師の所見による復職可否の判断が争点となることがあります。

 多くの場合、労働者は主治医の受診に基づく診断書を提出し、会社は労働者に産業医(もしくは会社指定の専門医)の受診を指示することになりますが、メンタルヘルス不調の労働者の復職判断には高度な専門性が求められることから、主治医と産業医の所見が真っ向から対立する例も少なくありません。典型的には、会社側の産業医は復職可能との所見を示しても、労働者の主治医は復職不可との判断をする場面も多く、この場合は双方の専門家の意見を総合してひとつの結論を導くことはなかなか困難です。会社がもっぱら産業医の意見を採用して復職を命じても、その後にメンタルヘルス不調が再発する可能性もあり、この場合は会社が労働者から民事上の責任を問われるリスクも否定できません。

 そこで、厚生労働省の指針(「事業場における労働者の心の健康づくりのための指針」)に基づいて策定された「心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き」(独立行政法人労働者健康福祉機構)が参考になります。この手引きの中では、「試し出勤制度(リハビリ出勤制度)」が紹介されています。試し出勤制度は、休職中の労働者の正式な職場復帰決定の前に試し出勤できる制度等を設けることで、より早い段階で職場復帰の試みを開始することができ、休業していた労働者の不安を和らげ、労働者自身が職場の状況を確認しながら復帰の準備を行うことができます。一方的な判断で復職させるのはさまざまなリスクを伴うけれども、いつまでも休職を継続していても復職の取っ掛かりがつかめないという場合に、労使双方にとって前向きな活用が期待されるのが、試し出勤制度だといえるでしょう。

 なお、法律的には雇用契約上の通常の勤務ではない試し出勤は「債務の本旨」の履行としての労務の提供ではないとされるため、原則として復職したものとはみなさず休職期間に通算しても差し支えないとされています。とはいえ試し出勤の期間が長期化することは本来の趣旨に反し、その間の賃金の取り扱いなどをめぐってトラブルになる可能性もないとはいえないため、就業規則の規定の根拠に基づいてあくまで本人の申出という形式で実施していくことが大切だといえるでしょう。


(小岩 広宣/社会保険労務士法人ナデック 代表社員)

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