コラム記事一覧へ

2014年2月15日

【この1冊】『老人漂流社会 他人事ではない"老後の現実"』

「豊かな日本」が陥った高齢社会の落とし穴

c140215.jpg発行・主婦と生活社
NHKスペシャル取材班、定価1300円+税

 

 昨年1月のNHKスペシャル「終の住処(ついのすみか)はどこに~老人漂流社会」で大きな反響を呼んだ番組の取材ディレクターらが、番組では伝え切れなかった取材過程などをまとめた記録集。「自分の老後」を自分では選べなくなった高齢者の実態を克明に追い、「豊かな日本」の別な一面を浮かび上がらせている。

 本書では病院や施設をたらい回しにされて自宅も失った人、東京の繁華街をさまようホームレスの高齢者など、個人への密着取材を通じて、なぜ漂流するところまで追い詰められたのか、本人の人生をたどってその過程を明らかにしている。その多くは認知症などの病気、配偶者との死別、年金不足などの貧困といった、老齢期に誰もが陥る可能性のあるきっかけばかりだ。

 しかし、それをカバーする制度が追い付かない。病院は長期入院を嫌い、有料老人ホームは金持ち専用、安い特別養護老人ホームは“待機老人”で超満杯。核家族化の結果、身内に面倒も見てもらえず、最後は「無料低額宿泊所」に落ち着かざるを得ない現実はかなり悲惨だ。

 本書では、こうした漂流老人を救い上げる活動をしている医師、NPO、施設経営者らの活動も紹介しているが、個人的な善意や情熱だけでは改善が困難な社会保障制度に対する無言の告発にもなっている。中でも、単身世帯の公的年金受給額(厚生労働省、2011年)が、月16.6万円以下の人が80%、月8.3万円以下でも42%に上っている現実には驚かされる。その一方で、1000万円単位の“なりすまし詐欺”に遭う高齢者が続発し、「日本の社会保障は高齢者に手厚い」という統計結果が流れている。高齢者の「二極化」と呼ぶべきなのか。

 団塊の世代が高齢者の仲間入りをして、超高齢社会はこれからピークに差し掛かる。「漂流老人」の課題は、もっと社会的に認知されるべきではないか。本書の問い掛けはかなり重い。 (のり)

PAGETOP