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2014年6月 7日

【この1冊】『雇用改革の真実』

“逆張り”労働制度論の迫力

c140607.jpg著者・大内 伸哉
日経プレミアシリーズ、定価850円+税

 

 有期雇用、限定正社員、「成果型」労働法制、労働者派遣法など、雇用を巡る話題が新聞テレビで盛んに報じられ、賛否両論が飛び交っている。ひと昔前まではほとんど注目されなかったこれらの問題が、今になってなぜ社会問題として扱われるのか。本書は、労働法制の観点から「雇用改革の真実」に迫っている。

 著者は労働法のベテラン研究者で、政府の関係審議会などでも活発に発言しており、労働法制と現実の労働現場の両方を知る立場にある。その結果、労働法は「弱い労働者の保護」のためにあるはずなのに、現実には保護と逆行する場合も多い事実を指摘。繁閑期の人員調整など、企業による「経済合理性に基づく行動」と折り合わないからだ。

 本書では「解雇しやすくなれば働くチャンスが広がる」「有期雇用を規制しても正社員は増えない」「派遣はもっと活用すべき」「ホワイトカラーエグゼンプションは悪法ではない」など、メディアの多くの論調とほぼ逆の論陣を張っている点が大きな特徴で、全8章に渡る“目からウロコ”の解説には説得力がある。

 現在、政府と労組・メディアが鋭く対立している「成果型」労働法制についても、自律的に働く「インセンティブ型」の労働者にとっては有効であり、日本経済の先行きはこうした労働者が増えるかどうかに掛かっている、と述べる。それは「残業」を大前提としてきた日本企業の労使のなれ合いを根本から変えるよう迫るものでもある。

 そうした大局論を踏まえれば、なぜ「成果型」が繰り返し提案されるのか理解でき、「残業代ゼロ法案」といった反対論が既得権にとらわれた、枝葉末節のレベルに過ぎないことが鮮明になる。昨今の、錯綜する労働法制の議論をどう整理すればいいか。それを考えるための教科書的な1冊。 (のり)

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