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2025年6月 5日

小岩広宣社労士の「人材サービスと労務の視点」281・2025年の年金制度改革①

Q 年金制度改革に関する法案が国会で成立する見込みと聞きましたが、具体的にはどのような内容でしょうか。

koiwa24.png 2025年の通常国会に提出されている年金制度改革法案(社会経済の変化を踏まえた年金制度の機能強化のための国民年金法等の一部を改正する等の法律案)が、5月30日に衆院で修正議決されました。今後の国会審議の行方にもよりますが、今国会で成立する公算が高いと見られています。改正案では、主に以下のような内容が盛り込まれています。

1.被用者保険の適用拡大等
2.在職老齢年金制度の見直し
3.遺族年金の見直し
4.厚生年金保険等の標準報酬月額の上限の段階的引き上げ
5.私的年金制度の見直し など


 上記に、衆院での審議の過程で「将来の基礎年金の給付水準の底上げ」に関する規定が追加され、修正議決されています。追加された内容は、以下の通りです。

「将来の基礎年金の給付水準の底上げ」
 ①政府は、今後の社会経済情勢の変化を見極め、次期財政検証において基礎年金と厚生年金の調整期間の見通しに著しい差異があり、公的年金制度の所得再分配機能の低下により基礎年金の給付水準の低下が見込まれる場合には、基礎年金又は厚生年金の受給権者の将来における基礎年金の給付水準の向上を図るため、基礎年金と厚生年金のマクロ経済スライドによる調整を同時に終了させるために必要な法制上の措置を講ずるものとする。この場合において、給付と負担の均衡がとれた持続可能な公的年金制度の確立について検討を行うものとする。
 ②①の措置を講ずる場合において、基礎年金の額及び厚生年金の額の合計額が、当該措置を講じなかった場合に支給されることとなる基礎年金の額及び厚生年金の額の合計額を下回るときは、その影響を緩和するために必要な法制上の措置その他の措置を講ずるものとする。(厚労省の「修正案概要」より)


 「将来の基礎年金の給付水準の底上げ」については、「基礎年金底上げ」が期待される画期的な内容だとさまざまなメディアやSNSなどで注目されていますが、改正案に盛り込まれているのは、あくまで「次期財政検証」(2029年)において、「基礎年金の給付水準の低下が見込まれる場合」に、「必要な法制上の措置を講ずる」とするものであり、改正法が成立することで、ただちに基礎年金の給付水準の引き上げが具体化され、確定するものではありません。

 将来的な基礎年金の給付水準の引き上げに向けた方向性が示されたことは大きいとはいえ、「この場合において、給付と負担の均衡がとれた持続可能な公的年金制度の確立について検討を行う」という文言も追加されており、今後の具体的な見直しの内容は現段階では不透明な部分が大きいともいえるでしょう。厚生年金の積立金の一部を充てる、いわゆる「基礎年金底上げ」には賛否両論がありますが、今後の具体的な見直しの推移を冷静に見ていきたいものです。

 次回は、その他の改正案の内容について見ていきたいと思います。


(小岩 広宣/社会保険労務士法人ナデック 代表社員)

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