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2014年12月27日

【この1冊】『ボケてたまるか!』

「早期認知症」に挑む体験ルポ

c141227.jpg著者・山本 朋史
朝日新聞出版、定価1200円+税

 

 少し前に聞いた人の名前が出て来ない。漢字を忘れてメモができない。予定をダブルブッキングした――。60歳を過ぎた著者は、当初は「加齢によるミス」と思っていたが、不安になって病院に駆け込んだら……。

 「軽度認知障害」と診断された著者の“闘い”が始まる。仕事を続けながら、正確な診断を求める一方、認知力アップに向けたトレーニングに通い、病状の進行を食い止めるあらゆる努力を傾けた。本書は、およそ1年に及んだその活動記録である。なぜ、そんなことが可能だったのか。著者が週刊誌のベテラン記者だったからだ。

 トレーニングは知能テスト、体力テストに始まり、料理教室、楽器演奏、遠足に至るまで、脳を刺激するあらゆる試みが行われる。どれもが具体的で克明に描かれており、読者は手に取るように状況を理解できる。その合間にも、症状が進んだらどうなるかという不安や焦りが付きまとう。そんな心情もユーモア交じりに余すところなく伝えており、早期とはいえ、本当に著者が認知症なのかどうかわからなくなる。

 本書は、「週刊朝日」に4月から半年間にわたって掲載し、大きな反響を呼んだ体験ルポを加筆したもの。ルポをきっかけに、11月に開かれた「認知症サミット」の関連イベントでオープニングスピーチをするおまけ付き。治療と取材を通じて、多くの知人友人を新たに得たことが、著者の財産になったようだ。

 団塊の世代が一斉に後期高齢者になる「2025年問題」がクローズアップされている。中でも、大きな課題になっているのが認知症だ。右も左も認知症の年寄りがあふれ返り、社会もサジを投げる。そんな悲惨なことにならないよう、今から自分の脳は自分で管理しよう。本書の訴えに、団塊の一人である評者もスナオに納得。 (のり)

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