コラム記事一覧へ

2015年2月14日

【この1冊】『肩書き捨てたら地獄だった』

甘ちゃんエリート官僚OBの挫折と復活

c150214.jpg著者・宇佐美 典也
中公新書ラクレ、定価760円+税

 

 「日本は肩書き社会」という常識を身を持って体験したエリート官僚OBの挫折と復活のお話。東大経済学部を出て経済産業省に入り、半導体産業の振興プロジェクトを担当するなど、絵に描いたようなエリート官僚が、一念発起して退官。孫正義やスティーブ・ジョブズらにあこがれて、自らの「冒険人生」を始めたが、肩書きのない30歳そこそこの若造には誰も振り向いてくれなかった。

 すっかり自信喪失した著者は、ここで初めて「世の中」を知ることになり、深く反省。現役時代から書き続けてきた本音ブログをきっかけに、少しずつ理解者を獲得し、仕事につなげて行った。やっとこさで「セルフブランディング」の形成が軌道に乗り、自らの体験を出版できる余裕も出てきた。その辺の経緯はとても率直に書いてあり、好感さえ持てる。

 評者は長年に渡って経産省など霞が関の官庁を取材して回り、エリート官僚ほどツブシの利かない職種はないことを実感してきた。それは官僚自身もよく知っており、大多数の役人は天下り機関に行くか、関連企業の役員になって楽チンな余生を過ごすのが常だ。若気の至りとはいえ、著者のように世の中の右も左もわからないまま、根拠のない自信にあふれて霞が関を飛び出すケースは珍しい。

 しかし、それでも「地獄の底」から這い上がってきたのは、やはり社会に必要とされる資質が本人にあったからであり、報われるだけの努力を重ねた結果でもあろう。東大卒のエリート官僚であっても、そうでなくても、組織に依存しない「フリーエージェント」という新しい働き方を志している若者には一読を勧めたい。 (俊)

PAGETOP