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2026年4月30日

小岩広宣社労士の「人材サービスと労務の視点」325・第3号被保険者の見直しの議論

Q 社会保険の第3号被保険者の見直しの議論が始まったと聞きますが、具体的にはどのような内容なのでしょうか。

koiwa24.png 「第3号被保険者制度」とは、1985年の年金制度改正で専業主婦の無年金問題を解消する目的で創設された制度であり、第2号被保険者(70歳未満の会社員や公務員など厚生年金の加入者)に扶養されている配偶者であって、原則として年収が130万円未満の20歳以上60歳未満の人のことをいいます。年収130万円未満であっても、厚生年金の加入要件にあてはまる場合は、厚生年金、健康保険に加入するため第3号被保険者には該当しません。第3号被保険者の保険料負担については、配偶者が加入する厚生年金制度の保険料で賄われるため、保険料を負担しなくても将来受け取る国民年金(基礎年金)の加入期間として扱われ、老齢年金や障害年金、遺族年金の受給資格に反映されます。

 第3号被保険者の制度は、扶養者が加入している厚生年金や共済組合が国民年金保険料を一括して負担することによって、自分自身で保険料を納付することなく保険料納付済期間となることから、遺族基礎年金や障害基礎年金を受給するための保険料納付要件を満たすことができ、将来の老齢基礎年金額に反映されるため、子育てや家事に安心して向き合うライフスタイルが維持できるというメリットがあります。一方で、自ら保険料を納めずに将来年金を受け取ることができる仕組み自体が、自営業の妻や働く女性たちとの均衡からも問題ではないかという声が今では多く聞かれ、賛否両論が渦巻いているというのが現状です。

 主な問題点としては、自ら保険料を拠出せずに年金や健康保険の給付を受けるため、社会保険の「自助・共助・公助」の原則から逸脱しており、自立した個人が保険料を負担する仕組みではなく、制度上の公平性に疑問がある点。配偶者の保険料で年金や健康保険の給付を受けられるため、共働き世帯や独身者と比べて優遇されているという点。そして、「年収の壁」による就労制約として、年間収入が130万円未満の基準を超えると第1号または第2号被保険者として保険料負担が発生することから、働く時間や収入を調整せざるを得ず、手取りが急激に減る「所得逆転現象」が発生する点などが指摘されています。

 2025年の年金改正法では、第3号被保険者制度そのものの議論は見送りとなりましたが、2026年10月からの短時間労働者への社会保険適用拡大(企業規模要件の撤廃)、産前産後・育児休業中の第3号資格は引き続き保護する第3号特例の継続が盛り込まれ、第3号被保険者制度の実質的な縮小につながる措置が講じられています。2026年10月の適用拡大により、これまで第3号被保険者だった配偶者が勤務先で社会保険に加入するケースが増え、第3号被保険者に該当する人が実質的に減少していくことが予想されます。

 4月13日には、社会保障制度改革に関する実務者協議で、国民年金の第3号被保険者制度の対象者を狭めていく方向で関係者の意見が一致し、報道によれば政府は今後このような方向性を「骨太方針」に反映させて改革を加速させていく方針だとされます。約641万人(2024年度末)いる第3号被保険者をめぐるさまざまな議論が、これから本格的に加速していくことが考えられるでしょう。

 蛇足ですが、先日筆者がある講座で「扶養制度とジェンダー」をテーマにお話しし、第3号被保険者の創設の歴史や被保険者間での不均衡が存在するだけでなく、間接的に女性活躍推進への影響が生じているという私見を述べたところ、第3号被保険者をめぐる議論について、とても興味を持たれた人が多く、さまざまな反響がありました。とても難しいテーマだと思いますが、前提となる知識の共有や前向きな意見交換の機会を大切にしていきたいものです。

(小岩 広宣/社会保険労務士法人ナデック 代表社員)

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