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2018年10月23日

【書評&時事コラム】『「働き方改革」の嘘』

「働き方改革」に正面から異議

c181025.jpg著者・久原 穏
集英社新書、定価840円+税

 

 本書は、政府が推進中の「働き方改革」に「ノー」を突き付けている。その理由は、働く人を幸せにする改革ではなく、経済界が望む「働かせ方」改革だから。したがって、財界の意を受けた政府が示すさまざまな改革案も、客観的な事実よりも感情に訴える「ポスト真実」が随所に見られ、とても信用できない。著者の主張は明快だ。

 プロローグとエピローグを含めて、「第一章 高度プロフェッショナル制度の罠」から「第六章 これからの働き方のヒント」までの8部構成。裁量労働制をめぐる厚生労働省の「インチキ調査」の経過、高度プロ制度をめぐる連合内部のドタバタ劇など、重要政策決定の舞台裏を描き、新制度がいかに労働者のためにならないかを強調する。

 全体を通した主張は、「働き方改革」は労働者側の改革ではなく、経営者側の改革でなければならず、「社員を幸せにする経営環境を整えよ」と強調している点であろう。「社員を大切にする会社」の好事例も挙げており、この点では坂本光司元教授の路線と一致する。

 ただ、現在進められている「働き方改革」がすべて政府と財界主導の「働かせ方改革」であり、「集められる有識者はすべて御用学者」と決めつけるのは、歴史学の陰謀史観に似た雰囲気があり、「何でも反対」の野党レベルの頑なさも感じられる。実際に新しい働き方をしている人々の実態をみれば、「雇用の安定」を叫ぶだけでは時代遅れであることもわかるであろう。(俊)

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