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2026年5月28日

小岩広宣社労士の「人材サービスと労務の視点」329・フィジカルAIが雇用に与える影響

Q フィジカルAIの登場が雇用の現場に大きな変化をもたらすといわれていますが、実際にはどうなのでしょうか。

koiwa24.png いわゆるフィジカルAI (Physical AI)の存在が注目されています。フィジカルAIとは、現実世界の物理的な環境を認識・理解し、自ら判断して物理的なアクションを実行するAI技術のことです。デジタル空間でのテキスト、画像、音声などの情報処理やコンテンツの生成を得意とするAI技術である生成AI(Generative AI)とは異なり、現実世界での物理的な行動を実行することができところに特徴があり、ロボットアームやドローン、自律走行機器、自動車など幅広い機器での応用を通じて、ロボット工学、自動運転車、製造・物流、建設・インフラ、医療・介護、飲食・サービスなど、物理的なタスクを実行する分野での活用が期待されています。

 ChatGPTに代表されるような生成AIの登場は、デジタル空間における情報の生成・処理・分析を劇的に加速させ、クオリティの高いデジタルコンテンツを効率的かつスピーディーに創造できることから、ビジネスシーンに大きなインパクトを与えました。ただし、生成AIは基本的にデジタル空間における情報処理にとどまる技術であり、現実世界における物理的なタスクをともなうものではなかったため、いわゆる現場部門における導入や浸透には一定の制約がありました。

 今後さまざまな物理的な身体機能を求められる業務や作業においてフィジカルAIが実装されていくことで、従来の優秀な「脳」を持つ生成AIを基盤として、「脳+身体」を持つAIであるフィジカルAIの活躍の場が飛躍的に広がり、現場部門における作業や管理を取り巻く構図が間違いなく塗り替えられていくことになります。ヒューマノイド(人間の形状や動作を模した人型ロボット)を含む多用途ロボット市場の規模は2030年頃を境に急拡大し、2040年までに約60兆円規模となる見込みだとされます(AIロボティクス検討会参考資料、2025年10月、経済産業省)。

 現在のフィジカルAIとしては、米国のテスラ社の「Optimus」が最先端のAI技術とロボティクスを融合した人型ロボットとして有名であり、日本でもトヨタ、ソニー、ファナック、Preferred Networksなどのほか、さまざまなスタートアップ企業などが参入しつつあります。もっとも早い製造・物流ではすでに導入が始まりつつあり、建設・インフラ、医療・介護、飲食・サービス分野などにも順次実装化が進み、2027年頃には主要都市で自動運転が解禁されるといわれています。

 フィジカルAIの普及・浸透は、中長期的には深刻化する労働力不足への対応として一定の効果が期待されるとともに、自動運転レベルにおける具体的な法整備が急がれ、医療・介護分野などにおける基準化が喫緊の課題となる可能性があります。バッテリーの持続時間がボトルネックとなることから、一般家庭への普及には猶予が待たれるものの、一定の信頼性のもとに24時間365日の安定稼働が実現しうる経済生産性の優位は大きく、普及の浸透によるコスト低下が進むことで企業の生産部門に飛躍的に広がることが期待されます。

 フィジカルAIの雇用への影響は、中長期的には雇用のあり方に根本的な変革をもたらすことになり、従来はAIにはあまり馴染みがないと考えられがちだった単純労働の分野に自動化・代替化が直撃することで、構造的な失業リスクが増大することが考えられます。同時に、生身の人間ならぬAIが重要業務を担う頻度が増すことに伴う緊急時などの責任の所在が大きなテーマとなり、またAIが人間に代わって現場で自律的に判断する主体になりうることへの是非や具体的な対処が問われる場面が増えることになります。

 AIの目覚ましい進歩や浸透には目を見張るものがありますが、雇用の現場を取り巻く環境にもまもなく大きな転換点が訪れると思います。どんな時代の変遷にもプラス面とマイナス面があるものですが、それぞれの立場や見識からこれからの環境変化が向かう先を冷静に見据えていきたいものです。

(小岩 広宣/社会保険労務士法人ナデック 代表社員)

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