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2019年11月12日

【ブック&コラム】揺れる大学入学共通テスト

 来年度に予定されていた大学入学共通テストへの英語民間試験の活用が延期となった。さまざまな観点から課題や問題点が指摘されながらも、文部科学省や文教族と呼ばれる政治家の肝煎りで進められてきただけに、実施スケジュールは崩れないと見られていた。ゆえに、突然の延期がおよぼす影響はあまりに大きい。とりわけ、現在の高校2年生や学校関係者らの怒りと不安はいかばかりか、察するに余りある。
 
c191111.jpg 筆者は、大学受験において試験制度の変わり目を経験している。現役の高校3年では「大学共通第一次学力試験」(共通一次)で、浪人した翌年は現在の「大学入試センター試験」に挑んだ。試験の名前が変わるだけに相応のインパクトはあったが、解答は同じマークシート方式のままで、科目選択の自由度が広がった。特段の焦りや違和感を抱かずに済んだと記憶している。

 ところが、今回は様相が異なる。戦後最大の「大学入試改革」と称されるもので、英語を中心に受験の仕組みを抜本的に見直す制度変更だった。「知識・技能」だけでなく、大学入学段階で求められる「思考力・判断力・表現力」を従来以上に重視するのが見直しの狙いで、その一環として英語の民間試験活用や国語と数学の一部に記述式を導入することにしていた。これほどの改革を目前に控え、運用の不備と準備不足を理由とした延期は容易に納得し難く、文科行政全体に対する不信感は募るばかりだ。

 民間試験活用を見送ることになった決定打は、文科相による「身の丈発言」にあるという。受験生が住む地域や家庭の経済状況によって不公平が生じる懸念があった“欠陥制度”が、そのまま突き進まずに土壇場で回避されたのは文科相の“功績”なのかもしれない。そんな嫌味と皮肉も言いたくなる。英語についてはブレーキがかかったが、まだ国語と数学の記述式の是非が臨時国会の論争の的となっている。何より当事者である受験生を第一に考え、早急に当面の着地点を固めてもらいたい。(博) 

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