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2020年4月30日

小岩広宣社労士の「人材サービスと労務の視点」18・新型コロナウイルスと労働保険料の猶予制度

Q 新型コロナウイルス感染症の影響によってやむなく労働保険料の納付が困難となった場合には、猶予制度があると聞きました。具体的にはどのようなものですか。

koiwa1.png 新型コロナウイルス感染症による事業休止や景況悪化の影響が中小企業の経営を直撃しており、資金繰りや財務内容の悪化も懸念されています。前回までは社会保険料の猶予・免除制度についてご紹介しましたが、今回は労働保険料の猶予制度について触れます。

 労働保険は、前年4月1日~今年3月31日までの分を6月1日~7月10日の間に申告・納付するため、そのための準備をしている会社も多いと思います。1年分のすべての労働者の保険料を一括もしくは3分割で納めるため、相当の金額になることも多いです。

 そのため、新型コロナウイルス感染症の発生に伴い、財産に相当の損失を受けた場合について、一定の要件に該当するときには、労働保険料の「納付の猶予」を申請することができます。労働保険には従来から納付の猶予の制度がありますが、新型コロナウイルス感染症の影響に対応した特例が置かれました。通常の納付の猶予と特例との違いは、以下のとおりです。

通常の納付の猶予 コロナウイルスによる特例
猶予の内容 ・分割納付
・延滞金の免除
・財産の差押えや換価(売却)の猶予
・延滞金の免除
・財産の差押えや換価(売却)の猶予
猶予の要件 ・財産について震災などの災害を受け、または盗難にあった
・事業主または生計同一の親族が病気にかかり、または負傷した
・事業を廃止、または休業
・事業について「著しい損害」を受けた
(*「著しい損害」とは申請前1年間に前年の利益額の2分の1を超える損失)
・全積極財産(負債を除く資産)の「おおむね20%以上」の損失を受けた
・損失を受けた日以降「1年以内」に納付
猶予期間 ・1年の範囲内で財産や収支状況に応じて最も早く完済できると認められる期間 ・1年以内の範囲内で被害のあった財産の損失の状況や種類を勘案して決定
申請方法 ・事実発生後、猶予を受けようとする期間より「前に」納付猶予申請書を提出
・原則として猶予を受けようとする金額に相当する「担保の提供」が必要
・災害がやんだ日から「2か月以内」に納付猶予申請書を提出

 このように特例による納付の猶予と通常の納付の猶予とは要件などが異なるため、特例を受けることができない場合でも、通常の納付の猶予を受けられる場合もあります。4月1日に公開された「新型コロナウイルス感染症の発生に伴う労働保険料の猶予措置に関するQ&A」では具体的な内容が分かりやすくまとめられていますので、参考にしてください。

(小岩 広宣/社会保険労務士法人ナデック 代表社員)

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