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2021年3月23日

【ブック&コラム】『老後レス社会』

本当に死ぬまで働かないといけないの?

c2103.jpg著者・朝日新聞特別取材班
祥伝社新書、定価880円+税


 少子高齢化が進むにつれてさまざまな「新語」が登場、マスコミを賑わすが、本書の「老後レス」もその一つだろうか。「老後」というものがない社会を意味しているが、その真意は副題にあるように「死ぬまで働かないと生活できない時代」を描いたものという。果たして新語・流行語として定着するかどうか。

 本書は「消える"老後"」で課題提起し、「高齢警備員」「会社の妖精さん」「ロスジェネ」など6章構成。主に、定年後も厳しい条件下で働かざるを得ない高齢者、仕事もないのに出社する高齢社員(昔の「窓際族」か)、就職氷河期世代の不幸など、高齢社会の現実と矛盾に密着。一方で、定年前の転職などを通じて新たな生きがいを見出す高齢者の姿にも触れている。

 かつて、サザエさんの父親の波平さんにとって、「老後」は55歳定年以後だったことはよく引用される。そんな時代はとうに過去のものとなり、現代では70代、80代になっても、働ける意欲と体力のある高齢者は働く時代。にもかかわらず、政府や企業、そして社会全体がそれに適した環境に移行しているのかどうか。高度成長期の枠組みから抜け出せない企業が、まだ圧倒的に多いのが実態ではないか。本書からは、そんな訴えが聞こえてくるようだ。

 少し気になるのは、新聞社の若手・中年記者の取材を基にした著作とあって、「豊かな人生の収穫期」よりも「暗黒の未来」を描く筆致の方が迫力を感じさせる点だ。これも、記者自身が感じている漠然とした将来不安の結果と言えなくもないが、過度な悲観的予想は常にはずれる。今回、取材にあたった記者たちには、10年後にぜひフォロー記事を書いてほしい。(俊)

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