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2021年6月 8日

【ブック&コラム】博物館入り?の「企業戦士」

 日本で来年から「男性版産休制度」が導入されると聞き、しばらく意味がわからなかった。子供を産まない男性がなぜ「産休」を取るのだろうか?制度の中身を聞いて、理解できた。要するに、出産した直後の2カ月ぐらいは、妻は心身ともに不安定になりがちだから、その間に夫が1カ月程度の「産休」を取って、妻と負担を分かち合おうという趣旨だそうだ。

c210608.jpg その趣旨自体に、異論反論の余地はまったくないが、なぜ「男性版」と銘打つのだろうか。それも、国際比較の統計データを見てわかった。日本の男性サラリーマンは、恐ろしいほど「家庭生活」にタッチしていないのだ。米英、北欧の先進国と比べておおむね半分以下!会社にいる時間が長い、すなわち長時間労働の結果から来る必然だ。「産休」どころの話ではなく、元のライフスタイルがそうできている。

 それも、無理はない。つい30年ほど前まで、男性は企業戦士として24時間働いた。家から一歩外に出れば7人の敵がいる「常在戦場」状態。家は妻に任せ切りで、子供の顔を見るのは週末だけ。子供にとって休日のパパは「家でゴロゴロしている」だけで、たまに子供を公園に連れていくのは「家庭サービス」と言われた。気が付けば、世界の流れに完全に取り残され、「男女不平等社会」と糾弾されることに。しかも、それで会社が稼いでいればまだしも、生産性の低下は覆い難く、給料は上がらなくなった。

 どうして、こんな国になってしまったのだろうか。今さら「男性版産休を」と言われても遅きに失した感は否めないが、やらないよりはマシか。考えてみれば、「男性版産休」は経済原理に基づく"政策"ではなく、若者世代がより充実した人生を送るツールの一つとみるべきなのだろう。企業戦士OBとして、少し後悔交じりに思う。(本)

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