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2021年7月22日

小岩広宣社労士の「人材サービスと労務の視点」81・新型コロナウイルス感染症の労災認定

Q 職場で新型コロナウイルス感染症に感染した労働者がいます。労災認定については、どのように考えるべきですか。

koiwa1.png 新型コロナウイルス感染症についてはワクチンの大規模接種や職域接種が進みつつありますが、変異株などが猛威を振るっていることもあり、収束まではまだまだ時間がかかりそうです。そんな中、職場やその周辺で感染者が発生したという例もあります。ワクチン接種によっても感染リスクを完全になくすことはできないことから、万が一、感染者が出た場合の対応については、労務管理上のテーマとしても想定しておく必要があるでしょう。

 感染が確認された場合は、療養に一定期間を要する上、その後の隔離期間が必要となることから、相当期間の休業が発生することになります。私傷病の場合は、有給休暇を取得したり、就業規則に基づく保障や手当がある場合を除いては、原則として労働者の欠勤として扱われるため、感染について労災申請できるかどうかは大きなポイントとなります。

 コロナの労災補償については、通達「新型コロナウイルス感染症の労災補償における取扱いについて」で国の考え方が示され、医療従事者等については業務外で感染したことが明らかな場合を除いて原則労災保険給付の対象となるとされていますが、深刻な感染状況と無症状でも感染拡大のリスクがあるという特性を踏まえて、6月24日に通達が改正され、医療従事者等以外の労働者の取扱いが明確にされました。「調査により感染経路が特定されなくとも、業務により感染した蓋然性が高く、業務に起因したものと認められる場合には、これに該当するものとして、労災保険給付の対象とする」とされていますが、具体的には以下のような内容です。

1.国内の場合
 ア 医療従事者等 業務外で感染したことが明らかである場合を除き、原則として労災保険給付の対象
 イ 医療従事者等以外の労働者で感染経路が特定されたもの感染源が業務に内在していたことが明らかに認められる場合には、労災保険給付の対象
 ウ 医療従事者等以外の労働者で感染経路が不明のもの 感染リスクが相対的に高いと考えられる次の労働環境下での業務に従事していた労働者が感染したときは、業務により感染した蓋然性が高く、業務に起因したものと認められるか否かを、個々の事案に即して適切に判断する
  (ア)複数(請求人を含む)の感染者が確認された労働環境下での業務
  (イ)顧客等との近接や接触の機会が多い労働環境下での業務
2.国外の場合
 ア 海外出張労働者 出張先国が多数の本感染症の発生国として明らかに高い感染リスクを有すると客観的に認められる場合は、出張業務に内在する危険が具現化したものか否かを個々の事案に即して判断する
 イ 海外派遣特別加入者 国内労働者に準じて判断する


 通達の改正を受けて更新された「新型コロナウイルスに関するQ&A(企業の方向け)」では、「7 労災補償」に「問1 労働者が新型コロナウイルスに感染した場合、労災保険給付の対象となりますか」が追加され、「業務に起因して感染したものであると認められる場合には、労災保険給付の対象となります。また、新型コロナウイルス感染症による症状が継続(遷延)し、療養や休業が必要と認められる場合にも、労災保険給付の対象となります」と回答されています。通達の「3 労災保険給付に係る相談等の取扱いについて」では、申請について懇切丁寧に説明し、認定の判断は請求書が提出された後に行うとした上で、不支給決定を行う際は当分の間、事前に本省の担当係に協議することとされているため、要件の中でできる限り柔軟に労災補償の対象としたいという国の意識が読み取れると思います。

 実際の認定事例を見ていると、感染経路が特定されない場合で、必ずしも複数の感染者が確認されない場合は、「顧客等の近接や接触の機会が多い労働環境下」であることを具体的に示すことが必要となるため、業務上の役割や発症前14日間の具体的な業務の状況、その間の私生活での行動等も把握する必要があるため、事業所の担当者の負荷もかなりかかることになるようです。万が一に備えた労務管理のあり方にも意識を払っていきたいものです。

職場で新型コロナウイルスに感染した方へ(リーフレット)


(小岩 広宣/社会保険労務士法人ナデック 代表社員)

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